ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三津田信三/「山魔の如き嗤うもの」/原書房刊

三津田信三さんの「山魔の如き嗤うもの」。

神戸(ごうど)地方の一集落である奥戸の旧家・郷木家の四男・靖美は集落に昔から伝わる
< 成人の参り >で登った三山で道に迷い、忌み山に入ってしまう。そこで一軒の人家に辿り
着き、一宿一飯の世話になるが、翌朝起きてみると、食べかけの朝食を残し一家全ての人物が
忽然と消えていた。外に出て周囲を探っているうちに、金脈を炭鉱したいくつもの穴を発見
する。その中に声をかけてみると、悲鳴のような亡者の叫びが聞こえてきた・・・。この体験
を綴った手記を読んだ刀城言耶は、奥戸に向かうが、そこで彼を待ち受けていたのは、六地蔵
を唄った童謡に見立てられた凄惨な連続殺人事件だった――刀城シリーズ第四弾。


前作が素晴らしい出来だったので、なかなかそれを超える作品は難しいだろうと思いながら
読み始めましたが、いやいや、とっても面白かった。しかも前作よりも更に読みやすい。なんせ
いつも苦労する漢字の読みがいつもより難しくない。確かに神戸(ごうど)、奥戸(くまど)、
初戸(はど)など、地名は相変わらず読み辛い。でも、その辺は一度読んでしまえば割とすんなり
頭に入って来たのであまり混乱はなかったです。人名に至ってはほとんど難しい読みもなかったし。
いつも苦労する、郷土の薀蓄話なんかもほとんど挟まれておらず、純粋に事件のみを追った形式
なので、驚く程すらすら読めました。予想ではもっと時間がかかると思っていたのだけど、二日
で読み終えられました。一作目の「厭魅~」で一週間かかっていたのは何だったんだ^^;;

それにしても、謎解きの伏線の細かさには恐れ入りました。言耶の二転三転する真相は驚きの
連続。始めに挙げた犯人だったら凡作だよなぁと思っていたら、まんまと覆され、更に
その先の先まで・・・一体、本当の真相は何なんだーーと訳がわからなくなりました^^;
言耶の説明ってかなり回りくどいですよねぇ。なんでわざわざ犯人を誤解させるような
説明するんだ?聞いてる側としたら「紛らわしい!」と怒りたくなるよ、多分^^;最初から
真犯人を言えーー!って(苦笑)。もちろん、ミステリとしてはこういうどんでん返しの展開が
面白いんですけど。
ただ、山魔を始め、赤ん坊の泣き声や山女郎や赤く光る火の玉といった怪現象の真相はちょっと
あっけない。当時の靖美の精神状態を考えると仕方ないのかもしれないけど、もうひとひねり
欲しかったな。
瞠目すべきは人間消失のからくりですね。うーむ、まさかそう来るか!衣類をはがされ、顔を
つぶされた死体、食べかけのまま放り出された朝食、死んだとされる少女・ユリが生きている
理由・・・etc、それら全てが合理的に説明がつく。もちろん、そんなのは序の口で、更に
驚くべき真相が次々と明かされたわけですが。東京で行方不明になってしまった郷木靖美の
存在も重要なポイントになっていたのですね。まさかそこにもあんなからくりがあったとは。
あっさり読み流していた一文がきっちり伏線になっていて、まさに脱帽でした。完成度は
「首無~」には及ばないかもしれませんが、この職人技級の謎解きはやはり素晴らしいと
思います。現代日本において、ここまで端正な『本格ミステリ』が書ける作家は他にいない
のではないかと思う。

もちろん、いつもの如くぞくぞくさせるホラーテイストも健在。怖さの度合いは「厭魅~」や
「首無~」の方が上だとは思いますが、夜中に一人で読んでたら充分怖かったです・・・。

個人的には三番目の殺人はかなりショックでした。なんとなく予想はしてたのですが、やっぱり
こういう展開になっちゃったのか・・・と。被害者と言耶とのやりとりが微笑ましかっただけに、
悲しくなりました。まぁ、その人物が犯人だった(つまり、言耶への好意も嘘だった)という展開
だったらもっとショックは大きかったかもしれないけれど。この手の本格ミステリでこういう気持ち
になるのは珍しいです。言耶もさすがにショックを受けてましたね・・・。

ただ、今回唯一楽しかったのは祖父江偲さんと言耶のやりとり。夫婦漫才みたいで笑えました。
少なくとも、偲さんはにくからず言耶のことを想っている模様。今後は二人の関係がどうなる
のかもちょっと楽しみかも(でも言耶はとことんその手のことにニブそうだけど^^;;)。


やっぱりこのシリーズは面白い。多少謎解きに無理を感じなくもなかったけど、それでも充分
本格ミステリを堪能できました。この手の横溝風ミステリをこよなく愛する私としては大変
満足な作品でした。
装丁も相変わらず作風とマッチしていて素敵だ。表紙の子はユリかな・・・?
次回作も楽しみです!