ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

水森サトリ/「星のひと」/集英社刊

水森サトリさんの「星のひと」。

中学三年の槙野草太の家にある日突然隕石が落ちて来た。その日を境に、草太の周りでは
様々なことが変わり始める。同級生の少女、夫婦仲の悪い両親、草太の命の恩人である
ニューハーフ、ひまわりみたいな黄金色の髪をしたクラスの異端児――星の下で導かれた
さまざまな出会いと奇跡を綴った連作集。第19回小説すばる新人賞受賞第一作。


前作「でかい月だな」がなかなかの良作だったので、次はどんな作品が出て来るかな、と
秘かに楽しみにしていた作家さん。前作は「月」がテーマでしたが、今回は「星」。天体
シリーズ!?(←違う)

さて、前作は青春小説にSFとファンタジーがミックスされたような不思議な作品でしたが、
本書は直球の青春小説と言っていい内容。とても良かった。前作でも感じたことですが、
このみずみずしいとしか言い様のない感性はこの方独特のものなのでしょうね。一人一人の
心理描写や人物造詣が非常に丁寧で上手い。一話目のヒロイン・はるきに関しても、この
年代特有の少女が持つ、他人への羨望や嫉妬や憧憬といった微妙な感情が手に取るように
伝わって来て非常にリアルでした。はるきのイライラの原因は、早い段階で気がついていた
ので、ラストで「ああ、やっぱり」って感じでしたが。草太への微妙な恋愛感情は読んでいて
胸がむず痒くなりました。ああ、青春の青さだって感じ。友人との関係も、すごくリアル
でしたね。亜子はちょっとステロタイプすぎる感じもしましたが、どんな時代でもこういう
子って友達に一人はいるのかもしれないな。最終話での亜子とはるきの仲直り(なのかな?)
シーンが好きでした。女の子同士って、こういう出来事があるともう二度と友達に戻れなか
ったりすることが多いと思うけど、はるきが亜子を諦めなかった所に好感が持てました。

草一郎のキャラは一番異質な印象でした。こんなに優しくて気が弱くて、一体どうやって
生きて来れたんだろうと不思議に思う程の『いい人』。おそらく、その優しさが他人の
庇護欲を駆り立てて今みたいな人気者になったんだろうな。でも、心の中では結構黒い
ことも考えていたりする所が水森さんのキャラ造詣の上手いところ。これは草太にもいえる
ことですが。どんなに周りから『いい人』に見られている人間だって、醜くどす黒い感情
を抱えている部分がある。そういう部分もきちんと描いているからこそ、かえって好感が持て
るのです。草一郎と草太の親子関係は特殊だけれど、とても素敵だと思う。適度な距離を保って、
それでもお互いに依存している部分もあって。これからは離れて暮らすのかもしれないけど、
親子の絆の深さはきっと変わらない。「夏空オリオン」の中の、草太の「どうか、死なないで」
の言葉。大切な人へのたった一つの願いが、重く切なく心に響きました。

ビビアンのキャラもとても好きでした。ちょっと惚れっぽすぎるのはどうかと思いましたが、
草一郎と草太親子への愛情は変わらないでいて欲しい。そして、これからもずっとこの親子の
味方でいてあげて欲しいな。最初は好感が持てなかったさっちゃんも、草太が行方不明になった
時の言動を読んで「母は強し」と思いました。かっこいいぞ、さっちゃん!きっとダイエット
したら美女になれる筈よ!(←?)第二の人生目指して頑張れ、さっちゃん!

ラストの「惑星軌道」の行方不明の少年二人を捜してみんなが一致団結するとこが好きでした。
そんな、みんな仕事ほっぽって来れる人ばかりじゃないだろ!とツッコミを入れたくもなり
ましたが、たくさんの人の人情にじーんとしました。温かい人たちに囲まれて草太は幸せな
人間ですね。だからこそ、こんな風にまっすぐに育つんだろうな。このまっすぐさは大人に
なっても変わらないで欲しいなぁ。


水森さんのみずみずしい感性がきらりと光る一冊でした。
この感性をこれからも磨いて欲しい。今後も追いかけて行きたい作家さんです。