ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

松尾由美/「フリッツと満月の夜」/ポプラ社刊

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松尾由美さんの「フリッツと満月の夜」。

両親の都合で突然夏休みの残り三週間を父親と二人で海辺の港町で過ごすことになったカズヤ。
三週間の間滞在する一軒屋の三軒隣にある洋食屋『メルシー軒』にはカズヤと同い年の一人息子、
ミツルがいた。ミツルはミステリー小説が好きで運動神経が鈍い、ちょっと風変わりの少年。
最初は苦手に思っていたカズヤだったが、ある出来事がきっかけで二人は仲良くなる。ミツルは
カズヤに、この町で起きた不思議な事件の秘密を打ち明け、二人で事件の謎を解こうと言う。
一方、町の中で金のピアスをした猫を見かけたカズヤは、夏休みの自由研究の課題としてこの町の
猫のことについて書こうと思い立つ。どうやら金のピアスは不妊治療をしたという証らしいの
だが、中に一匹不思議な猫がいて――金色のピアスをした猫に導かれて経験するひと夏の青春
ミステリー。ポプラ社 teens' entertainmentシリーズ。


何の予備知識もなかったのですが、図書館の新刊案内で見かけてとても面白そうだったので
予約してみました。調べたところ、ポプラ社のYA向け新レーベルの第一回配本なのだそう。
講談社ミステリーランド理論社のミステリYA!シリーズに続いて新たなジュヴナイル
ミステリーレーベルの確立となるのか。なんせ、元祖ジュヴナイルと言っても過言じゃない
ポプラ社が立ち上げたレーベルなので、非常にこれからの配本が楽しみ。

さて、本書。本当に奇を衒わない爽やかなジュヴナイルミステリーでした。先に挙げたミステリー
ランドやミステリYA!で出て来るような変化球とは違い、正に直球。のんびりした海辺の町、
絶品の洋食屋、風変わりな友人、奇妙な事件、そして不思議な金色の目に金のピアスをした猫。
松尾さんはもともとジュヴナイルに向いていると思っていたけど、全くその通りでした。意外な
ことに初の児童書だそう。アーチーシリーズもジュヴナイルと言って差し支えないと思うけど、
児童書ではないものね。

子供向けとはいえ、内容はきちんとミステリしてます。老婦人が隠した巨額の現金の行方を追って
探偵活動を始める二人の少年たちが生き生きと描かれていて良かったです。一つ一つの謎は
ささいなものでも、きちんとミステリとしての驚きも用意されていてあなどれません。特に
ダビデの星の印に関しては「なるほど!」と思わされました。老婦人のお金を隠した犯人に
関しては伏線がかなりあからさまなのでわかりやすかったですが・・・まぁ、ジュヴナイル
ならばこれくらいのゆるさでも許されるのではないかな。意外といえば意外な人物でしたし。

不満だったのは、猫のフリッツが出て来るのがちょっと遅すぎたところ。もう少し早い段階で
カズヤと仲良くなって欲しかったなぁ。特殊な技能に関しては満月の夜限定だから仕方ないと
しても、もうちょっとカズヤのもう一人の相棒として活躍させて欲しかった。フリッツの
キャラ造詣はなかなか傲岸不遜な所が気に入りました。満月に猫を見たらフリッツを
思い出して話しかけたくなっちゃうかも。
あと、カズヤ親子が海辺の町に行くきっかけとなった出来事にはかなりズッコケました。あんなのに
付き合わされるカズヤも気の毒というか。まぁ、そのおかげで楽しい体験が出来て、信頼できる
友達プラス猫一匹も出来たのだから結果的には良かったと思うけれども^^;

変化球作続きでいまひとつ不満が残るミステリYA!シリーズよりは万人におススメできる
ジュブナイルミステリー。かなり私好みで気に入りました。
表紙も爽やかでいい。人気漫画家の鈴木志保さんだそうです(し、知らない^^;)。
新しいYA!レーベルとして今後の配本に注目したいと思います。
(第一回配本のもう一冊も面白そうなんだよね)