ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

石持浅海/「月の扉」/カッパノベルス刊

石持浅海さんの「月の扉」。

那覇空港から飛び立つ直前の琉球航空八便で、三人のハイジャック犯により飛行機が乗っ取られた。
犯人の要求は、現在那覇警察署に留置されている石嶺孝志を午後の十時半までに空港滑走路まで
「連れてくる」こと。あくまで連れてくるだけで釈放する必要はないと言うのだが。しかし、タイム
リミットまでの緊迫する機内では、トイレの中で人質の母親が死体となって発見された。こんな
状況下で何故犯人は殺人を犯したのか?その方法とは――。


これの続編の記事に書いた「『月の扉』を読んでない」というコメントを覚えて下さっていた
心優しきゆきあやさんより頂いた本です。せっかく頂いたものの、なかなか石持作品に食指が
動かず読むのが大変遅くなってしまいました・・・すみません~^^;っていうか、ご本人からは
「これより先に読む本があるでしょ!!」とお叱りを受けそうな気もするのですが・・・わ、忘れて
るわけじゃないんですよ!読む気もありますよ!部屋の本棚の中のすぐ手に取れる場所に置いて
あるんですよ!で、でもぉーー、あの苦痛を思い出すとなかなか手が出なくてぇ・・・今年中に
せめて一冊は読むつもりなので待っててくださいねっ(←一冊かよ!)。以上私信でした^^;


で、改めまして本書。一言メッセージでも書きましたとおり、出だしは大変苦戦しました。
まず、ハイジャック自体と、それを起こす犯人たちが心酔する『師匠』や、怪しげな教育
キャンプという設定が私の好みではなかった。彼らの『師匠』の人物像も、カリスマ性が
やたらと強調されるだけで、本人自身が見えて来なくて気持ち悪かったし。どう考えても
宗教めいた彼らの活動に嫌悪を感じて、彼らの意図がわからない段階ではなかなかページが
進まなかった。でも、彼らの要求が明かされて、ハイジャック中にトイレで発見された死体の
謎に焦点が当たってからはかなりすいすい読み進められました。何より、なぜか真相解明を
依頼されてしまう座間味君の少しとぼけたキャラが良かった。彼自身の性格はいまいち掴めない
ままではありましたが。座間味島のTシャツ着てたから『座間味君』っていうのも結構ツボでした。
途中から本人も気に入って容認してるし(笑)。何故彼を犯人究明役に指定したのか、という
部分に関してはいまひとつ必然性が感じられず、ご都合主義のようにも感じましたが、まぁ、
彼の人となりを推理して、探偵役に指名した真壁の慧眼を褒めるべきなのかもしれません。

ハイジャック三人組が座間味君を探偵役としてトイレの死体を検証していくくだりは非常に
面白かったのですが、肝心の犯人と真相に関しては弱冠肩透かし。犯人に関しては
「やっぱり・・・」って感じでしたし、犯行に関しては「それでほんとに人が死ぬのか?」
という根本的な部分で疑問が・・・。かなり偶然が重なった結果だと言われてしまえばそれまで
なんですが。なんとなく腑に落ちないものを感じました。凶器の持込方法に関してはそれなりに
納得も出来たのですが。

ラストの展開に関しては賛否両論ありそうです。いきなりラストだけSFになっちゃうのは
どうなのかな~とは思いましたが、こういう余韻のつけ方もありかな、という気も。
ただ、結局石嶺の人物像がわからないままなので、この結末にするならばもう一歩踏み込んで
書いて欲しかった。
ハイジャック三人組(プラス石嶺)の結末もちょっとあっけさすぎて、虚しく感じました。
しかし、続編って一体どんな話になってるんだろ^^;『座間味君』が出て来るのだけは確か
なんでしょうけど^^;でも、座間味君が『座間味君』と呼ばれることはもうないと思うん
ですけど。本名とか出て来るのかしら。うーむ、気になる。借りてみるか。

弱冠厳しいことも書きましたが(すみません^^;)、推理の過程は非常に楽しく読めました。
全体的にデビュー作の『アイルランドの薔薇』を彷彿とさせる作風でなかなか好みの作品でした。
ゆきあやさん、貴重なご本を本当にありがとうございました。
面白かったです!←え、説得力ないって?^^;ホントですよ~。