ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鳥飼否宇/「非在」/角川書店刊

鳥飼否宇さんの「非在」。

植物写真家の猫田夏海は奄美大島の海岸で一枚のフロッピーディスクを拾う。フロッピーの中には
大和総合大学の学生による奇妙な手記だった。手記には、未確認生物を調査探索するULTRAという
サークルの学生たちが伝説の島『沙留覇島』で体験した出来事が綴られていた。しかし、手記の
最後には殺人事件が起きSOSを告げる記述が――フロッピーを拾った猫田は、すぐに警察に
知らせるが、警察が大々的に捜査をしても件の島は発見できなかった。猫田は、自称『観察者』
こと鳶山久志と、バー < ネオフォビア > の常連、高階甚平と供に幻の島探しに乗り出すが――
南海の孤島で繰り広げられるネイチャーミステリー。


なかなかめぐり合えなかった本書ですが、久しぶりに行った新中央図書館で目出度く発見。
前作『中空』がとても面白かったので読むのをとても楽しみにしていました。今回のテーマは
『人魚』。更には仙人やら朱雀やらも出て来て、怪しさ満載です。前半はULTRAメンバーによる
手記部分がかなりのページ数を割いていて、これが事件の謎を解く全ての鍵になっているの
ですが、実はこの部分が私にはかなり読みづらかった。ULTRAのメンバーたちもいまひとつ
好感が持てる人物がいなかったし。入り込めずに読んだせいで、真相に至るたくさんのヒントを、
ものの見事に読み逃してました^^;

事件の真相はかなり凝っていて、謎解きも面白かったのですが、白骨死体のトリックに関しては
某作家の某作品を思い出してしまい、あまり新鮮味はなかったです。人魚やら朱雀やらの
空想上の生物の合理的解釈は面白かったけど。鳶さんの博識ぶりには舌を巻きました。『人魚』
の考察なんかは「へぇ~~」の連続でしたし。ただ、ラストの人魚の正体にはずっこけましたが
・・・それを人魚と見間違えたっていうのはちょっと無理矢理すぎないかい?^^;だいたい
ここで登場した生物に関して、作中に全く伏線らしきものがないのはいただけない。思わぬ
伏兵が登場して面くらいました。

前作ではあまり感じていなかったのですが、猫田さんって鳶さんのことが好きみたいですね。
鳶さんのキャラ造詣も実はあんまり印象になかったのですが、手足が長くてすらっとしてる
というような表記があるので、実は意外にかっこいいのかな?博識だし。猫田さんが好きに
なるのも頷けるかも。でも生物にしか興味なさそうだし、飄々としすぎてて、恋愛感情とか
超越してそうな気が・・・この二人もQEDシリーズのタタルさんと奈々ちゃんみたいに
つかず離れずのじれったい関係になるんでしょうか。猫田さんの感情も微妙すぎて、鳶さんに
対する気持ちもいまいち推し量れない所があったんですが^^;
私としてはこの辺をもうちょっと突っ込んで書いて欲しい気もします。










以下ネタバレ表記あり。未読の方はご注意下さい。












受け入れられなかったのは大乗寺が食べた人魚の肉が人肉だったこと。こういう展開はやっぱり
気持ち悪くて好きじゃない。カニバリズムは最も忌むべき禁忌だと思うし。極限状態の人間が
狂気に捉われてしまった様子は伝わって来ましたが・・・正直読んでいて吐きそうでした・・・。





全体的に凝った作りで面白かったのですが、謎解き部分は少し煩雑でわかりにくかったです
(またしても私の理解力の問題!?)。作品としては「中空」の方が好きかなぁ。でも、
猫田たちが孤島でサバイバルするくだりは結構好きでした。三人いれば文殊の知恵じゃないけど、
いろんな知識持ってる人が集まると、絶海の孤島でも案外生きて行けそうです。だからって、
ULTRAの部員たちのような状況には追い込まれたくないですけどね^^;

このシリーズ、あと一冊ミステリフロンティアの『樹霊』があるんですよね。楽しみ^^