ミステリ読書録

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紺野キリフキ/「ツクツク図書館」/メディアファクトリー刊

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紺野キリフキさんの「ツクツク図書館」。

筑津区のはずれにある≪ツクツク図書館≫。ここはつまらない本しか置いてない。そして、
へんてこな職員しかいない、利用客の少ない図書館。このツクツク図書館が、ある秋の終わりに
一人の着ぶくれ女を雇った。ツクツク図書館の職員の仕事は本を読むこと。しかし、この女、
全く仕事をしないでわがまま放題。館長は彼女に仕事をさせようと必死になるが、柳に風。
そんな女が、この図書館に一冊だけあるという伝説の『面白い本』の話を聞いて――ちょっと
シュールでおかしな図書館物語。


またしてもタイトルに惹かれてつい借りてしまった作品。日頃図書館にお世話になりっぱなし
人間としては、図書館が舞台というだけで読みたくなってしまうのです。書架で手に取って
ぱらぱら見てみたら、かなり不思議な世界っぽいので、いちかばちかって感じだったんですが。

これが、なんとも評価に困る作品。設定だけ見てもとにかく変。つまらない本しか置いてない
とか、図書館員は本を読むことが仕事とか、小さな部屋が無数にあって、それぞれにタイトルに
即した本が置いてあるとか。ツクツク図書館の存在自体が不思議である上、そこで働く職員たち
がまたみんな風変わり。気弱な館長、つまらない本を運んで来る『運び屋』、どんな言語も
話せる『語学屋』、本を元に戻す仕事を担うド近眼の幼稚園児『戻し屋ちゃん』。そこに
やって来るのがどんな季節も分厚く着ぶくれた仕事をしないでわがままいい放題の『女』。
いちいちツッコミたくなるようなキャラや設定で、始めはかなり面食らいました。『女』
のわがまま放題の態度に嫌悪を覚えたし、たまに出て来る教訓も的を射てるのかわからない
微妙なものが多いし、文章もお世辞にも上手いとはいえないし。正直、中盤まではあまり面白い
とは思えなかった。でも、とにかくあっという間に読めてしまうので勢いでページをめくって
いったら、だんだんとこのシュールな世界にはまってしまった自分がいました。特に文字が読める
猫が出て来た辺りから。必死で本のページをめくって『つまらない本』を理解しようとする猫が
健気で微笑ましかった。読んだところを示す『肉きゅうしおり』にもほのぼの。元の飼い主との
最後は切なくなりました。この猫がこの作品のシメともなっている所がいい。ツクツク図書館の
結末はややあっけないけれど、誰もいない図書館で一匹取り残された猫は、これからものびのびと
本を読んで暮らしていくのかもしれない。

独特のシュールな世界にはまる人ははまるし、受け付けない人は受け付けない作品かもしれ
ません。内容が浅いといわれてしまえばそれまでだし。でも、私は結構はまってしまいました。
図書館好きならば一読しても損はないのでは(1時間半くらいで読めるし)。どちらかというと
寓話的要素の強い作品と云えるので、童話感覚で読まれるのが良いかも(文章も少ないので)。

本を読むのが仕事なんて、なぁんて羨ましいんでしょ!と思いましたが、そこにあるのが
『つまらない本』ばかりだとしたら、それはやっぱり苦行でしょうね・・・。私もこんな
図書館に行ったら仕事(=本を読むこと)をしたくなくなるかも・・・^^;しかし、何を
基準に『つまらない』内容だと判断するんでしょうねぇ。誰かにとって面白くなくても、
他の誰かにとっては面白い本だってあると思うんだけど。ま、その辺をツッコム作品じゃ
ないとは思いますけどね。
とにかく、奇妙な世界に浸れる一冊でした。