ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

貴志祐介/「新世界より 上・下」/講談社刊

貴志祐介さんの「新世界より 上・下」。

千年後の日本、科学技術に代わり呪力で支配される社会で、子供たちは徹底的に管理されていた。
神栖66町に生まれた渡辺早季もその一人だった。管理された子供たちは通過儀礼を得て呪力を
習得する。何も知らずに呪力を習得する子供たち。しかし、その裏に隠されたおぞましき事実が
明るみに出る時、世界の崩壊が始まる――著者三年半ぶりの書き下ろしSFファンタジー


上下巻併せて1000ページ以上の大作です。予約したら下巻が先に回って来てどうしたものか
と思いましたが、無事間を空けずに下巻が回って来たのでほっとしました^^;受け取ってまず
上下巻併せた本の分厚さに引きました。これは読むのに気合が要りそうだなぁと読み切れるか
心配になりながら読み始めたのですが。これが、まぁ、とんだ杞憂でした。一度読み始めると
ページを捲る手が止められない。どっぷり世界に入り込んでどんどんページが進んで行きました。
内容はもう、とにかく盛りだくさん。いろんな要素を盛り込んで何でもアリみたいな感じ。読んで
いて恩田さんの「ネクロポリス」を思い出したのですが、あちらはたくさんの要素を盛り込み
過ぎて収拾つかずに終わってしまった感が強かったのですが、こちらはいろんな要素が詰まって
いるのに散漫な印象がない。基本的には少年少女の冒険SFファンタジーの体裁ですが、間違い
なく読者を選びそうな程一つ一つの要素が黒い。出て来る生物たちはみんな不気味で醜悪だし、
殺戮シーンの残虐さ、エグさは吐き気を催しそうだったし、主人公の周りの人間はどんどん
姿を消して行くし。裏切りと陰謀が渦巻く暗黒の世界に圧倒されました。まさしく大人向け
ダークファンタジーという感じ。嫌悪を覚える人も多そうですが、はまる人にはたまらない
世界でしょう(私は言わずもがな。もちろん後者です)。

同性愛が奨励されている世界という設定も面白かったです。この設定があるからこそ、
早季と真理亜、瞬と覚、早季と瞬、早季と覚という同性・異性間の微妙な関係や感情の
動きに深みが出たと思う。現実では理解できないかもしれないけれど、この暗黒の世界の中
においては必要不可欠で説得力のある設定という感じがしました。










以下ネタバレあり。未読の方はご注意下さい。












印象に残ったシーンはたくさんあるのだけど、一つ一つ挙げるのは野暮という気がする。
とにかく、世界観に圧倒されました。こんなに長いのに、冗長だとは全く思わなかった。
上巻は休みを一日つぶして一日で読了。下巻は纏まった時間が取れないこともあり、結局3日
くらいかかったけれども、退屈を感じる時間はほとんどなかったです(皆無とはいいませんが)。
もちろん、悪鬼による残虐な殺戮シーンや醜塊な化物や虫たちが出て来るシーンなんかは気が遠く
なりかけましたが・・・。でも、あまりにもあっさり人が死ぬので、だんだん殺戮シーンに
慣らされて行ったような気が・・・。早季の周りの人間も次々とあっけなく命を落として行くので、
読むのが少し辛かったです。個人的には奇狼丸の最後が特に・・・。この計画を発案した早季も
使命の為とはいえ、かなり酷いな、と思いました。死を前提にした計画というのは、読んでいて
気分のいいものではないです。あんなに世話してあげたのに、捨て駒みたいに使われてしまう
奇狼丸はあまりにも哀れだと思いました。でも、彼との最後の約束が果たされたのはせめてもの
救いでしたが。
もちろん、瞬との別れも切なかった。しかも、記憶が改竄されてしまい、存在すら忘れて
しまうというのは一番悲しい。大好きだった人のことを覚えていられない、覚えていてもらえ
ないというのは最も残酷な仕打ちという気がする。最後に思い出せてよかったです。


バケネズミの正体には素直に驚きました。これも相当黒い真相ですよね。結局、人間が人間を
変形させ、共食いをしていたようなもの。全ての元凶は人間にあり、一番忌むべきは人間の業
なのかもしれません。


不満を言えば、悪鬼と業魔の区別がいまいちつかなかったこと。瞬が業魔に、真理亜と守の
子供が悪鬼になった訳だけれど、その違いは何だったんだろう?どうしてそうなったのかが
あまりよく理解できなかった(単に読み取り不足?^^;)。どっちがどっちかよくわからず
混乱してしまった。どちらか一つの設定の方がすっきりしててよかったんじゃないのかなぁ。










この本に関してはあんまり語るべきではないのかもしれない(ここまで書いておいて何を言う)。
先入観がない方が作品を楽しめるのではないかという気がします。
ただ、世界観に圧倒され物語に入り込む幸せ。それが陰惨で残虐で気が滅入る展開だろうが、
面白いものは面白い。めまぐるしく展開するストーリーを追って私も暗黒の世界を旅して
いました。多分こういうのが本を読む醍醐味なんだろうなぁと思う。この大作を読み終えた
満足感に浸ってしばらく他の本が読みたくない気分になりました(もう読んでるけど^^;)。
長さにしり込みせず、是非手に取ってみて欲しい作品です。今年を代表するSFファンタジー
であることは間違いのない所でしょう。