ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畠中恵/「いっちばん」/新潮社刊

畠中恵さんの「いっちばん」。

廻船問屋兼薬種問屋、長崎屋の一人息子一太郎のもとに、日限の親分が相談にやって来た。最近
通町に出没している質の悪いスリ。犯人は老舗の大店・黒川屋の次男坊富治郎とその仲間・おすま
だと目星をつけた親分は秘かに調べを進めるが、それを知った黒川屋から苦情が入り、親分は
十手返上の危機に。問題は、すられた品物を富治郎がどうやっておすまに渡しているかの証拠を
掴むこと。若旦那は早速妖たちを使って情報収集をすることに――(「いっちばん」)。大人気
しゃばけシリーズ第7弾。表題作他4作を収録。


しゃばけシリーズ最新刊。やっぱり、このシリーズは短編の方が好きだな。変に重くならずに
さらっと読めるところがいい。今回も妖怪たちが大活躍。鳴家に萌え~~~でした。一太郎
病弱ぶりも相変わらずで、兄やたちの過保護ぶりにも拍車がかかってます。ほんとに、一太郎
以外の人物はどうでもいいのがひしひしと伝わってきます。何度も「そりゃないよ~」とツッコミ
たくなりました^^;



以下、各作品の短評。


「いっちばん」
これはシリーズの妖怪たちが大集合で一番楽しく読めました。スリの手口には弱冠拍子抜け
でしたが^^;相変わらずミステリとしてはゆるいです。まぁ、そのゆるさが妖怪たちの
可愛さと相まってほのぼの感を演出しているともいえるのでしょうけれど。


「いっぷく」
以前に出てきたある登場人物が再登場。もしかしたらまた出て来るかも、とは思っていたので、
「やっぱり!」って感じでした。こういう再会は嬉しいですね。一太郎とその人物が出会った
場所が場所なだけに・・・お互い、良かったねぇって感じです。


「天狗の使い魔」
一太郎、またしても危機です。でも、捉われの身になってもマイペースで危機感がないので、
あんまり危険な感じがしませんでしたが^^;この胆の据わり方はやっぱり妖しの血を引いてる
からなんでしょうか。
天狗と狐がにこやかにお酒を酌み交わし友情を育む情景を想像して、微笑ましくなりました。


「餡子は甘いか」
これはもう、栄吉~~頑張れ~~!!の一作ですね。彼が一流の菓子職人になれる日は遠い・・・。
それでも、「菓子作りが好き」という栄吉の情熱に胸を打たれました。どんなに下手で素質が
なくても、好きなことは続けられる。これからもたくさん挫折するんだろうけど、彼にはずっと
お菓子を作り続けて欲しいです。真面目で根気のある性格は職人向きって気がするのになぁ。
頑張れ、栄吉。


「ひなのちよがみ」
あの厚化粧の雛ちゃん再登場。厚化粧の影には可愛らしい素顔が隠れていたんですねぇ。化粧を
して不細工になるってどういうことだ^^;お雛ちゃん、なかなかしっかりした性格で好感持て
るキャラでした。
ラストで、何の役にも立てなかったと落ち込む一太郎。それでも、兄やたちの温かい励ましで
前向きに頑張ろうとする一太郎の姿に優しい気持ちになれました。



病弱で一人では何もやらせてもらえない一太郎。それでも、一作ごとに少しづつ成長の兆しが
伺えます。何より、甘えようと思えばいろんなものに甘えて楽に生きることもできるのに、
そうしないで一人で頑張ろうと一生懸命な一太郎の姿勢がとても好きなのです。これからも彼の
成長を兄やたちや妖したちと一緒に見守って行きたいです。
私の後にはもう100人以上の予約者が待っている模様。早く返しに行かなくちゃ。