ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

二階堂黎人/「鬼蟻村マジック」/原書房刊

二階堂黎人さんの「鬼蟻村マジック」。

同じ会社の先輩・臼田竹美の頼みで、彼女の実家の鬼蟻村にやってきた水乃紗杜瑠。有名な酒蔵
を経営している彼女の実家で法事が行われるのだが、その席で彼女の婚約者のふりをして欲しい
というのだ。女性しか愛せない竹美だが、伯母や母からお見合いをして結婚させられそうになって
困っているという。仕事の締め切りが迫っていた紗杜瑠は断ろうとするが、彼女の実家にある
リカちゃん人形コレクションをもらえると聞いて即座に了承する。しかし、村を訪れた彼を待ち
受けていたのは、凄惨な連続殺人事件だった――社会人水乃サトルシリーズ最新刊。


待望の社会人サトルシリーズ。久しぶりにサトルに会えて嬉しかったです。彼の奇矯さは今回さほど
姿を見せなかったですが。でも、先輩の頼みを聞くきっかけが『リカちゃん人形コレクションに
つられたから』というのはいかにもオタクのサトルらしくて大ウケでした(笑)。残念だった
のは、このシリーズのワトソン役(?)である美波由加里嬢が今回は同行しなかったこと。彼女と
サトルの恋の行方を楽しみにしている身としてはそこはちょっと物足りなかったです。ま、出て
来たとしてもサトルの性格のせいで大して進展もなさそうですが・・・。今回、彼女のことを
『可愛い妹分』だと思っているという表記が出てきますし。サトルは相変わらずプレイボーイだし。
この二人、どうも「美味しんぼ」の山岡さんと栗田さんを思い出すんですよね・・・なんとなく。
・・・変?

で、内容はというと、まさに直球の横溝風本格ミステリ。旧家で起きる陰惨な連続殺人事件。
70年前の不可解な密室殺人事件。村に伝わる『鬼』の伝説・・・。本格好きにとってはたまらない
シチュエーションてんこ盛りで楽しめました。密室の謎も目新しさというのはないけれど、
それなりに整合性があり、まずまずの出来といえると思います。犯人については確かに意外な
人物でしたし。ただ、この展開は先行作品があるので驚きという点ではさほどでもなかったですが。
動機については、横溝作品のある作品を思い出しました。犯人のある性格が関係しているところとか。
三津田さん程緻密な伏線が張られているという訳ではないので、謎解きのカタルシスとしては
控え目かもしれませんが、新本格時代から第一線で本格を引っ張ってきた二階堂さんらしい
端正な本格作品と云えるのではないでしょうか。

謎解きでサトルが誤った部分に関しても、エピローグ部分でフォローがあったのでかえって
効果的で良かったです。ああいう場面で致命的なミスを犯すというのは珍しいような気もしますが、
どこか抜けてるところがサトルらしいといえるのかも。ラストの台詞もくすり。報われて
良かったねぇ。

それにしても、誤植がやたらに多かったのが気になりました。校正ちゃんとしたのか?二階堂
作品を読んだのは久しぶりだったのですが、こんなに誤字脱字が多い人だったっけ?作家の
責任なのか、編集側の責任なのか(この間の柴田さんでも思ったけど)、とにかく、作品として
世に出す以上、この辺はもっとしっかりして欲しいところです。

ま、その辺は差し引いても、本格好き人間としては満足の一冊でした。やっぱり学生サトル
よりも社会人サトルの方が好きだな(学生の方は一部しか読んでないけど^^;)。ただ、この
シリーズ出版形態がばらばらなので、非常に読みにくいですね。その都度版元が変わるのは
何故なんでしょう・・・裏で作家と出版社の確執でもあるのかなぁ。