飛鳥部勝則さんの「堕天使拷問刑」。
両親を事故で一度に亡くし、母方の実家に引き取られることになった中学一年の如月タクマ。
母方の実家は閉鎖的な田舎の町で、転校した学校では初日から同級生に『ツキモノイリ』と呼ばれ
孤立してしまう。この町では数年前に陰惨な殺害事件が起きているのだが、それは祖父の大門大造が
召喚した悪魔の仕業だと噂されており、更にその大造自身が不可解な怪死を遂げていることから、
大造は『悪魔憑き』と見做されていた。従って、大造の孫であるタクマも同じ様に悪魔が憑いている
との短絡的思考から謂れのない差別を受けるはめになったようだ。しかし唯一タクマに協力的な
土岐不二男という友人も出来、さらに不二男の入部しているオカルト研の部長、根津京香という
美女とも知り合いになれ少しだけ浮かれた気分になったタクマだったが、突如義母が無残な斬首
死体で発見される。更に彼の同級生が相次いで殺される事件が起き、タクマに疑いがかかって
しまう――傑作本格怪奇長編。
記事を書くのは初めてですが、初期の美術ミステリは割と読んでいた飛鳥部さん。ここ数年
ご無沙汰でしたが、表紙とタイトルに惹かれて読みたいと思っていた作品でした。
面白かった・・・!!!もちろん一言メッセージに書いたのはこの作品のこと。久々に超ド級の
キワモノミステリを読んでしまった。とても万人にお薦めできる作品ではありませんが(苦笑)、
私はもう、全部がツボにきました。本格ミステリ、ホラー、サイコサスペンス、SF、ファンタジー、
そして青春小説・・・作中にはあらゆるジャンルが入れかわり立ちかわり挿入され、途中物語が
どこに行っちゃうのか読者おいてけぼり状態になったりしますが、ラストはきっちり伏線が回収
される本格ミステリで終結。全体的に漂う異色の怪奇趣味がなんともいえない雰囲気をかもし
出してます。出て来る登場人物がいちいち一癖も二癖もあってB級感を演出。タクマの新しい義母で
ツキモノハギの玲、その愛人で変態住職の間秀、絶対零度の美少女江留美麗、オカルト研の
カリスマ美女部長根津京香、オカルトの膨大な知識を持つクラスメイトの土岐不二男・・・中でも
強烈だったのは美麗の祖母江留麻夜。風貌は夜中に見たら間違いなく山姥だと思って逃げ出す
だろう恐ろしさ。なのに、妙に人懐こいところがあって、タクマとの会話にはついつい笑って
しまいました。『この町に老人がいない理由』はなんとなく想像通りではありましたが、
面白いキャラだったので麻夜が出て来るシーンがここしかなかったのは残念でした。
主人公タクマはとても中学一年とは思えない達観した性格で、何度も「お前はほんとに中学生か!」
とツッコミを入れたくなりました(不二男もですが)。町や学校中から村八分にされ、迫害され
ている割に全く悲壮感がなく、妙に自分の状況を受け入れている所があるので、あまり重さを
感じずに読み進めることができました。悲惨な状況なのに恋に浮かれる能天気な一面も持って
たりするし。美麗と京香の間でふらふらしたりするところは思春期の少年ならではなんでしょう。
どちらも強烈な印象の美少女であることに変わりはなく、タクマがどっちを選ぶのかな~と
思っていましたら・・・しーん。後半の彼の受難の日々を思うと、京香とのデートで浮かれて
いたタクマがいかに幸せだったのかが偲ばれます・・・哀れ。
連続殺人の犯人に関しては伏線が割合あからさまな所もあるので案の定、という感じでは
あったのですが、その犯行手順には只管驚愕。この大胆な犯行にはただただ唖然とするしか
なかったです。いやー、まさかあの場面が・・・。改めてその場面に戻ってみると、犯人の
悪魔的犯行に慄然とします。読んでいて西澤さんの「収穫祭」を思い出していたのですが、
今回の犯人の手口はあの○○の犯行手口を超えたんじゃないかな・・・動機といい、凡人には
理解出来ません・・・いやしたくありません^^;;
全てがすっきりしたわけではなく、特にタクマのクラスメート憂羅充の殺害方法には疑問が
残りましたし、大門大造の殺人なんて完全にバカミス。タクマが最初に考えた推理もやっぱり
バカミスとはいえ、それなりに面白いと思ったのですが、ある理由から即座に却下され、
あっさり撤収。この『ある理由』に関しては読者に対してもアンフェアだろ!と思ったのですが、
真相はそんな要素も完全無視の、推理するとかのレベルではないのに呆然。死体の状況からだけしか
推理できないじゃん、ソレ^^;
終盤の美術館でのアレとの遭遇だけはちょっと受け入れ難いものがあったのですが(だって
いきなりファンタジーの世界^^;)、そこ以外はとても楽しめました。印象に残ったシーンは
山ほどあってあげてるとキリがない程。いろんなガジェットてんこ盛りでお腹いっぱい。
ホラー小説がお好きな方には不二男のホラー小説百選レポートが楽しめると思う。私は
一作も読んでる作品がなかったのでさっぱりついていけなかったですが。beckさんやゆきあや
さんならピンと来る作品ばかりなんだろうなぁと思いながら読んでました。
ラストで明かされるA先生の正体にはまんまとやられました。だって~、性格が違いすぎるんだ
もん^^;でも、このラストのしめ方がとても好きでしたね。これってやっぱりボーイミーツ
ものだったんだなぁとにやりとしました。
キワモノミステリに興味のある方には是非チャレンジしてほしい一冊です。でも、冒頭に述べた
ように万人受けする作品ではないと思われます。気持ち悪いシーンもいっぱいあるし。
個人的には本年度のミステリベストに間違いなく入れるでしょう(「山魔~」より興奮したもん)。
いやー、面白かった。こういう世界大好きなんですよ。ラストは洞窟探検まで出てきたし!(洞窟
フェチ人間)
表紙はモロに萌え系ですけどね(表紙買い狙いか?)^^;