ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

桂望実/「平等ゲーム」/幻冬舎刊

桂望実さんの「平等ゲーム」。

瀬戸内海に浮かぶ孤島『鷹の島』。約1600人の島民は全てが平等。特権階級や格差を生み出
さない為、四年ごとに行われる抽選により仕事は振り分けられ、物事は全てが島民全員による
投票で決定される。宗教・信仰も自由、ただし、勧誘は禁止。全てが島民の理想の生活の為だった
筈だった。島の勧誘員である耕太郎は、欠員補充の為、新たな居住対象者を勧誘しに本土に降り立
ったが、思いがけない出来事が次々と起こり、自分の信じていた理想郷に疑問を感じ始める――。


桂さん新刊です。今までの桂作品とは大分雰囲気が違いますが、人物造詣や間に挟まれるちょっと
した人情話などは『らしさ』が伺えます。全てが平等で島民たちによって管理された理想の生活。
冒頭で主人公の耕太郎が島への新しい居住者ターゲットに島のことを説明するくだりがあるのですが、
私がターゲットの立場だったら絶対怪しい宗教だと思うと思う。島での生活(住む場所も食事も
その他のあらゆること)全てがタダで、仕事も割り当てられて老後の心配もない、なんてそんな
オイシイ話には絶対裏があるに違いないと疑ってかかるに違いない。冒頭で勧誘された森みたいな
ワーキングプアだったらそりゃー無条件で飛びついてしまうかもしれないけれど。この作品で
繰り返し語られるのは『平等であることの意義』。全てが平等な社会が本当に正しいことなのか。
競争意識を持たない島民が本当に幸せなのか。私はやっぱり、全部が全部平等なんてどだい無理
な話で、どこかで綻びが出て来てしまうのは当然の結果だったんだろうと思います。確かに競争
意識を持たなければ心に焦りや嫉妬も生まれず、平穏に過ごせるのかもしれない。でも、徒競走
で手を繋いでゴールすることに何の面白味があるんだろう?スポーツだって勉強だって、勝ち
負けがあるから燃えるし楽しいものなのに。勝った時は嬉しいのは当たり前だけど、負けた時の
悔しさや挫折だって、次に繋がるエネルギーになる。それは人間の人格形成に絶対に必要不可欠
なものだと思う。争いのない世界に生きて来た主人公の耕太郎は信じられないくらいの純粋
培養な性格で、他人の醜い感情が理解できない。優しく穏やかで好感の持てるキャラなのは
間違いないのだけど、人の心の痛みや苦しみが理解できない耕太郎が哀れでした。まさしく、
『環境が人を作る』を体現させたようなキャラでした。こういう人物ばかりだったら確かに
平和で穏やかな共同生活が送れるのかもしれないけれど、やっぱり酷く退屈なんじゃないだろうか。
会話だって上辺だけのものになってしまうだろうし。それはやっぱり、私が本土で生きた側の
人間だからなのだろうけど。
でも、耕太郎自身も本土でのいろいろな経験を通して、少しづつ自分の置かれている状況に疑問を
持ち始めます。絵を描くことを覚え、島に対して疑問を持つことで、彼は少しづつ人間らしい感情
を芽生えさせていく。私は後半の耕太郎の方がずっと魅力的だと思いました。絵を描いてそれが
他人に喜ばれた時の感情、コンクールで自分の絵が落選した時の落胆、最優秀賞に選ばれた作品を
見た時の嫉妬。耕太郎の感情の機微が伝わって来て、こちらも嬉しくなったり悲しくなったり
その都度共感できました。



以下、ラストに触れています。未読の方はご注意下さい。















終盤、胎児の死体が発見された辺りで「もしやミステリ的な展開に!?」と思ったのですが、
そこまでサスペンス的な展開にはならずにほっとしました(ミステリ好きとしてはそっちでも
面白かったとは思うけれども)。でも、島に対して問題提起をした耕太郎をすぐに投票裁判に
かけて、あっけなく追放させてしまう島民たちには「なにが平等だ!」と腹が立ちましたし、
邪魔者を排除させようとする島民意識が怖くもありました。こういう状態に置かれると、
人は何が正しくて何が間違っているかの正確な判断がつけられなくなってしまうのかも
しれません。条件だけ見るととても楽しそうに思えるけど、やっぱりこんな閉ざされた
特殊な環境の島では暮らしたくないなぁ。

桂さんらしく、脇役キャラがまたとても良い。お花の師匠や絵の師匠もなかなかの傑物でしたが、
やっぱり一番は豪華客船の船長柴田さんとバーテンの岡本さん。いい味出してたな~。
柴田さんは主人公にとって「Lady,GO!」のケイさんと同じような役割として登場させたので
しょうね。主人公がこれから辿って行くであろうけもの道を支援し応援する擁護者。彼が
定年退職した後、二人はどんなユートピアを作るのでしょうか。今度こそ、本当の意味での
理想の楽園を作って欲しいと思います。






理想の楽園とは?平等とは?いろいろな意味で考えさせられる作品でした。
桂さんらしく、主人公の精神的成長を描いた良作だと思います。年齢設定は34歳ですが、
純粋培養な性格なので、もっとずっと下に感じられました^^;
ただ、このタイトルにはかなり違和感があり不満。ゲームってニュアンスの作品では
なかったので。もっと他になかったのかなぁ。