ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恩田陸/「きのうの世界」/講談社刊

恩田陸さんの「きのうの世界」。

東京で平凡な会社員として働いていた中年男性が、ある日突然、何の前触れもなく上司の送別会の
席から忽然と姿を消し、一年後、塔と水路のあるM町の小さな木造の橋の上で死体となって
発見される。刺殺のようだが、周囲に凶器は発見されなかった。彼はどうして死んだのか?
その謎を解く為に一人の女がM町にやってきて、町の人々の間に思わぬ波紋が広がることになる
――著者渾身の傑作長編。


去年から無期限発売延期になっていた本書、一体どうなったんだろう?と気にはなっていた
のですが、ようやく発売されました。去年の発売予定日によもや延期されるとは思わずフライング
で図書館予約を入れたものの、一向に発売されない為一旦予約解除を余技なくされ、今回改めて
予約を入れるという二度手間を踏まされました。実は、この間出た『不連続の世界』が『きのうの
世界』からタイトル変更で発売された作品だったのかと思ったりもしてたんですが、全然別の作品
だったんですね^^;本書は新聞連載作品だそうで。これだけ細切れに謎を提示されたら、さぞ
かし読者は気をもんでただろうなぁと推測しますが^^;
総ページ数478ページ。恩田さんにしては久々のこのボリューム。途中やや中だるみする
感じもあるのですが、独特の世界観と文章力であっという間にページが進んで行きました。

恩田さんご本人自らが『これは私の集大成』とおっしゃったそうですが、まさに『これぞ
恩田陸と言わしめるような作品だと思います。謎めいた塔と水路の町という設定自体が
なんともいえない幻想的なホラーテイストをかもし出していて恩田ワールド全開です。そこで
一人の男の死体が発見されたことから、不穏な空気が町全体に飛び火していく。この過程の描き方
はさすがで、ぐいぐいと読まされてしまいます。ただ、視点が次々と変わるし、いろんな角度から
事件が語られて行くので、頭を整理するのが大変でした。視点が変わる度に新たな謎が提出される
ので、前で感じた疑問点を忘れちゃったりすることもしばしば。結局最後まで読んでも伏線かと
思われた箇所がそのまま放置されていたりするところも多く、全てがすっきりしないところも
相変わらずの恩田流。今回は本当にそういう場面が多かった。伏線らしき文章があまりにも多い
せいもあるとは思うのですが、思わせぶりな設定が次々出て来る割に、その部分が終盤の謎解き
で生かされることがほとんどなかった^^;ミステリ読みとしては不満に思わなくもないのですが、
「恩田さんだからな・・・」と思えてしまうところが、盲目的ファンだよなぁと自覚してしまいます。
一度読んだだけではまだまだ見落としがありすぎて、作品の正統な評価が下せないような
気がする。もしかしたら、新聞連載ということで、恩田さんご自身も自分で伏線のつもりで
書いた設定のことを忘れちゃったのかな、と思ったりもするのですが^^;

市川吾郎の死の真相には仰天しました。これは多分賛否両論あるんじゃないかなぁ。恩田さんの
世界観だから許される気がするけど、ミステリとしてこれがアリなのかどうかは判断を下しにくい。
確かに、『前代未聞』であること間違いない。一応整合性はあると思うけど、荒唐無稽ともいえるし、
推理できる人はほとんどいないのではないかなぁ。だって、その前に市川に起きたある驚愕の事実
を前提にしないと推理できないように思うので。それが最後まで明かされないから、本格ミステリ
とは言えないですね。フェアじゃないもん。ま、『予想できない結末』として充分驚かされたので、
私としてはアリですが。
三つの塔の謎にも驚かされました。まさかそんな壮大な仕掛けがあるとはねぇ。

腑に落ちない部分を一つ一つあげていくと、多分10や20は軽く超えると思う。これは読んだ
方と是非語り合いたい作品です(周りではまだ誰もいなさそうですが)。っていうか、誰か
お願いだから一つ一つ解説してーーー!!っていいたくなりました^^;ミステリ読みのくせに、
ほんと、頭弱くて嫌になっちゃうなぁ。







以下、思いっきりネタバレしてます。未読の方はご注意を!













結局、新村和音が楡田栄子にしたことって何だったんでしょうか?キャラメルに薬を混ぜた?
でも、栄子の死は結局自然死という結末だし、そうだとしたら一体何の薬を仕込んだのでしょうか。

あと、駅の三つのステンドグラスの『亀』『ハサミ』『天の川』の意味も結局何だったんだ?

塔に結ばれる『赤い糸』の意味もよくわからないまま。町に水が溢れないようにという祈りを
込めるとしても、そもそも一体どこから『赤い糸』が出てきたんだろう?この辺りは地元に
伝わる都市伝説的なものだったと捉えればいいのかなぁ。

市川がやって来たとたんに町の仕掛けが明らかになる位の嵐が来るっていうのもちょっと
ご都合主義的に感じました。何故市川や新村志津はそれ程の嵐が来ることがわかったんだろ?
水抜き穴のセンとして塔はずっと存在していて、町の人もこの塔の本当の機能を知らなかった
位なのだから、多分何十年・何百年と普通の嵐の水量くらいでは排出しきれない状態にならな
かったということだと思うんですが。なぜ今回に限って塔を破壊しなければならなかったのか
がいまいちよくわからなかったです。

他にも細かくあげていけば多分キリがない位、多くの謎が残されています。うーむ。
ま、あまり細かいことをつつかない方が無難なような気はする^^;つきつめていくと
どんどん泥沼にはまっていくような・・・。











とにかく、恩田ワールドにどっぷりはまれる一冊であることは間違いありません。
この世界観を楽しめるか、解かれない謎に腑に落ちない気持ち悪さを感じて憤るか。
それは是非ご自分で確かめてみていただきたいです。
私自身はその中間点にいるような・・・憤ってはいないですけど(笑)。
いい意味でも悪い意味でも『恩田陸』そのものという作品。久々に恩田さんらしい
長編ミステリを読んで満足です(頭が『はてな』で埋め尽くされてはいますけど^^;)。
早く他の方の評価が聞きたいなぁ^^;