ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東野圭吾/「変身」/講談社文庫刊

東野圭吾さんの「変身」。

ある日、気弱で平凡な会社員・成瀬純一は、突然不動産屋に入って来た強盗に頭を撃たれてしまう。
次に目が覚めた時、彼は病院のベッドの上で、脳移植手術が行われた後だった。手術を担当した
堂元博士によると、手術は成功したが、慎重に経過を観察しなければならないという。そして
退院後も一週間から10日の間隔で病院に通うことを余儀なくされた。順調に社会復帰したかに
思えた純一だったが、少しづつ自分の中で何かが変わってきたことを感じ始める。次第に性格が
攻撃的になって行き、愛していた筈の恋人に対しても以前の態度で接せられない自分に苦悩する
純一は、自分の脳移植のドナーについて調べ始めるが――。


未読の東野作品を減らそう計画、久々に実行できました。とにかく開架に置いてある東野作品
が少ないので、なかなかこれが思うように進まない。置いてあっても汚くて借りたくなかったり
することも多く、東野人気を実感するわけなのですが(借りられる回数が多いということ
ですものね)。
このタイトルからカフカの「変身」を思い出す人は多いと思いますが、私は恥ずかしながら
そちらを読んでません^^;ある日起きたら昆虫だか爬虫類だかになってる話ってくらいは知って
ますけども。
この作品では表面上の変化はなくても、内面がどんどん「変身」して行きます。主人公の性格が
本人の意思とは関係なく凶暴化していく過程はなかなか怖いものがありました。気が弱く、
心優しい性格だった青年が凶悪な犯罪者になって行く。純一の性格が少しづつ壊れて行く一方で、
所々意味深に挟まれる『堂元ノート』や『葉村恵の日記』など、緊迫感を増長させる構成も
きいていて、先の読めない展開に読む手が止められませんでした。でも、正直読んでいて嫌悪感
ばかりを覚える作品でした。読後感もよくない。あそこまで変わってしまった純一に残された道は
あれしかなかったのかもしれないけれど・・・。
それに、終盤の展開にはかなり不満を覚えました。







以下ネタバレあります。未読の方はご注意下さい。
(毎度すみません^^;どうしてもラストに関して言及するとネタバレ
扱いになっちゃうんですもの^^;;)














堂元が、殺人を犯して逃げた純一を抹殺すると病院の連中にいわれて、京極亮子を純一に
会わせる手はずを整えたという設定は何の意味があったのだろう?亮子に関してはもう
ちょっと何らかのエピソードがあっても良かったのでは。

それに、純一の父親が厳格なことや、幼い頃、鼠を殺させた父親に憎しみを覚えていた
というエピソードなんかから、実は純一の変身後の人格は、幼い頃のトラウマによって
作り出された純一の別人格だったというオチなのかな、とか考えたりもしたのに、それも
何の伏線でもなかったので拍子抜け。意味深な設定が出て来る割にそれが生かされて
いないのでかなり消化不良に感じました。

自ら命を絶とうと発砲した純一に対して、堂元が施した手術ははっきりいって、世界初の
脳移植患者を死なせたくないという堂元のエゴでしかないと思う。手術が成功して植物状態で生き
ながらえることなんて純一は望んでいなかった筈。あのまま死なせてあげればよかったのに。
どこまでも純一を『研究対象』でしか見ていない堂元に腹が立ちました。

それとは逆に、最後まで純一を見捨てなかった恵の存在だけが救いでした。あんな冷たい態度を
取られて、人殺しまでした人間を愛し続けるなんて。東野さんらしくないヒロインだなぁと
思いました。これが書かれたのって離婚される前(もしや結婚前?)だったりして?^^;
いつもだったら嫌悪を感じるのはヒロインの方なのに、今回は男の方だったので(苦笑)。













緊迫する展開で一気に読めたけれど、好きな作品とはいえないなぁ。純一には嫌悪しか覚え
なかったし、読後感も悪いし。何より、いろんな部分が未消化で気持ち悪い。無理矢理
ラストのあのシーンに繋げちゃった感じが納得いかなかったです。そういえば、私、初期の
東野作品にあんまりいい思い出なかったんだよなぁってことを思い出しました。
でも、まだまだ未読が残っているので借りられ次第どんどん読むもんね。