ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

椹野 道流/「亡羊の嘆 鬼籍通覧」/講談社ノベルス刊

椹野 道流さんの「亡羊の嘆 鬼籍通覧」。

テレビや雑誌で大人気の料理研究家、夢崎愛美が自宅の食堂のテーブルの上で猟奇的な死体と
なって発見された。遺体は、9本のナイフを使って刺殺され、胸にナイフとフォークが突き
刺さっていた。O医科大学法医学教室に解剖依頼が持ち込まれた。解剖を担当した伊月崇と
伏野ミチルは、遺体の刺傷がある法則でつけられていることに気付く。犯人が遺体に施した
装飾は何を意味するのか?法医学教室奇談シリーズ、待望の第六弾。


実に4年ぶりに鬼籍通覧シリーズの続きが出ました。本物の法医学教室に勤める作者が
法医学教室の内情を描いてるだけに、なかなかリアルな法医学の実態がうかがい知れて
興味深いシリーズです。もう続き出ないのかと残念に思っていた所だったので、新刊が出て
嬉しい(新刊っていっても、もう出てから大分経っちゃったけど^^;)。基本的には
ミステリではないので、ミステリ好きとしては弱冠読み応えがない作品が多かったこの
シリーズですが、今回はかなりミステリを意識して書かれた作品。有名料理研究家が惨殺死体で
発見され、その死体には奇妙な装飾が施されていた――まさしく本格テイスト。ただ、事件の
真相は割合あっけなく解決し、ミステリ小説として見るとやっぱり食い足りなさはあります。
でも、このシリーズらしく、遺体の解剖所見から事件解決の糸口を発見するくだりはさすがに
面白い。昔流行った深津絵里さん主演のドラマ「きらきらひかる」を思い浮かべてもらうと
わかりやすいかな。遺体がその人の死のすべてを語っているから、解剖する側はそれに耳を
傾けなければいけない、というやつ。伊月とミチルのO医科大学法学教室の二人、普段は
おちゃらけコンビですが、解剖の時は真剣に遺体と向き合う。このギャップが結構好きです。
今回の犯人のあまりにも身勝手な犯行理由には唖然。でも、いかにも現代の犯罪という感じもする。
それに、こうしてネット社会に身を置いている立場としては、ネットでの人間関係の怖さも
改めて思い知らされました。何気ない一言が取り返しのつかない事態を招いてしまう。
自戒しなければ、と思いますね。

今回も幕間に挟まれる「飯食う人々」が楽しい。ハードな仕事を終えて、リラックスしながら
みんなで食卓を囲む場面にはこちらもほっと一息つける感じがします。相変わらず筧君は
癒し系だなぁ。もちろん、猫のししゃもとセットで(笑)。完全に伊月の世話焼き女房って
感じですが、彼の面倒見の良さには頭が下がります。友達に一人いたら重宝するタイプだな(笑)。

今回も伊月の指導監察医・龍村氏が渋くていい味出してます。でも、今回一番強烈だったのは
初登場の鑑識員、バナナマン・高倉拳。頭の中では当然、完全にバナナマン・日村がイメージ
されてました・・・(名前はタカクラケンだけど(笑))。バナナ持って追っかけてきそう・・・
怖っ!(バナナあんまし好きじゃないんだよね~^^;)

ちなみに、『亡羊の嘆』とは、学問の道が多方面に分かれているために、真理を見極めにくい
こと、あるいは、思案に暮れることのたとえだそうです。勉強になるなぁ。物事が多岐に
亘れば亘るほど、どれが真実だかわからなくなって、自分がどの道に行けばいいのか
わからなくなるってことですね。


次はこれ程間を空けずに続編が期待出来そう(作者の希望的観測ではあるけれど)。
楽しみに待っていたいと思います。