皆川博子さんの「聖女の島」。
巨大な軍艦のような絶海の孤島に罪を犯した少女たちの更生施設が建てられている。その島に、
崩壊しかけた施設を立て直す為、修道会から派遣された一人の修道女が降り立った。島では、
園長が言うには31人いた筈の少女が3人亡くなって28人になっているという。しかし、
修道女の前で再び園長が少女たちの数を数えると、なぜか31人いる!知らない少女が3人
混じっているのか?それとも、3人の死は園長の妄想だったのか――?狂気に彩られた島で
起きる、戦慄の幻想怪奇ミステリー。
皆様の絶賛を浴びていた本書。先日久しぶりに行った中央図書館でめでたく発見、即捕獲(笑)。
手にして、その薄さにびっくり。それもそのはず、総ページ数はせいぜい180ページ程度。
読み始めてあっという間に読み終えてしまった。でも、そのたかだか180ページの中に
素晴らしく凝縮された濃密な物語が詰まっていました。皆川さんらしい、幻想的で耽美で肌が粟立つ
ような狂気に彩られた歪んだ世界。その圧倒されるような世界観の創り方はさすがとしか言い様が
ないです。出て来る人物がことごとくに怪しい。どこか狂ってる。不穏な空気がびしばし漂っていて、
何だか得体の知れない気持ち悪さをずっと感じながら読み進めて行きました。28人しかいない
はずの少女が31人いる。3人の少女の存在は何なのか?もう、この謎だけでもこの島には何か
気持ちの悪いことが起きてることが伺い知れます。そこに持って来て、当の少女たちの妖しさ、
おぞましさ、得体の知れなさといったら!視点が全て大人たちから語られていて、少女たちの
内面描写がいっさいないことが、彼女たちの不気味さをいっそう引き立てています。大人たちを
嘲笑するかのような彼女たちの目線の高さが怖い。この島に連れて来られた少女たちはみんな
盗みや恐喝を繰り返し、幼くして性を知った狡猾な人間ばかり。そんな少女たちがそう簡単に
更生なんかする訳ないのです。なんとかして優位に立とうとする大人たちを団結していとも
簡単にやり込めてしまう。その手腕が見事なだけに、そら恐ろしい。コクトーの「恐るべき
子供たち」を思い出しました。こんな子たちに標的にされてしまった日には・・・。
そして、ラストのカタストロフ。ラストを読んでまた読者は冒頭の1ページに戻らざるを
得ない。うーん。凄い。実はラストを読んで一瞬頭が凍りついたのですが、じわじわと
その狂気の余韻が胸に迫ってきました。この短い作品の中に、これだけ壮絶な物語を織り込める
というのは、やっぱり皆川さんの文章力の素晴らしさなんだろうな。この幻想的、幻惑的な
世界観は皆川さんだけのものでしょう。
解説は恩田さん。恩田さんが皆川作品を好きというのは十分作風から頷けますね。恩田さんの
少女の描き方や幻想怪奇的な作品の雰囲気は皆川さんに通じるものがあるように思います。
皆川さんはたくさんの作家さんたちに愛されている稀有な作家って感じがしますね。
綾辻さん、有栖川さんによって復刊されたというのも納得。よくぞ復刊してくれました!
と賛辞の言葉を贈らせて頂きましょう。