ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

北森鴻/「虚栄の肖像」/文藝春秋刊

北森鴻さんの「虚栄の肖像」。

花を活ける花師にして、天才的な絵画修復の技能を持つ絵画修復師である佐月恭壱の元に、霊園の
墓碑の前で古備前の甕に桜を活けて欲しいという依頼が舞い込む。奇妙な宴の席で、佐月は
絵画修復の依頼も受けることに。報酬は桜を活けた古備前だという。何か裏に曰くがありそう
なのだが――(「虚栄の肖像」)。花師にして絵画修復師、二つの顔を持つ佐月が活躍する
シリーズ第二弾。


何を隠そう、私がブログを開設して一番初めに書いた記事がこの佐月シリーズの第一弾「深淵の
ガランス」でした。今読み返してもあまりの記事の拙さに記事そのものを消し去りたいくらい
なのですが、その頃は人に読んでもらうことなど全く斟酌せず、自分の為の覚書として書いて
いたので仕方ないかな、これもいい思い出だもんね、と開き直ってそのままにしてあります。
でも、自分の中で「一番最初は大好きな北森さんの記事にしよう!」と思って書いたことは
よく覚えています。ちょうどその時出たばかりの「深淵~」を読んだばかりでしたしね。
その続編がついに出ました。その間に北森作品のレビューは結構書いていますが、やはりこの
シリーズの記事が再び書けるというのは特別の嬉しさがありますね。

前作はキャラ紹介的な内容で、設定の魅力はあるものの、いまひとつミステリとしては
食い足りない印象もあったのですが、今回は前作に比べて絵画修復の仕事の魅力も、佐月の
魅力もパワーアップしているように思いました。特に、佐月の過去が明かされたことで、
前作ではただクールで謎の男というイメージに終始していたところが、人間らしい感情も
持ち合わせていることが見えてきたのが良かった。佐月にとってはとても苦い結末が待ち受けて
いますが、三つの中編を通してある人物に対する佐月の想いと感傷が伝わって来て、余韻の残る
読後感になりました。それぞれ、ミステリとしてもなかなか読ませる展開で、完成度が高かった。
狐さんの存在は相変わらず意味深で謎めいています。本来のシリーズの彼女とキャラが全然違う
気がするのは私の気のせいでしょうか・・・なぜか佐月の前だとSになるような(笑)。



以下、各作品の短評。

『虚栄の肖像』
これはちょっとからくりがわかりづらかったなぁ。いろんな要素や人物が複雑に出て来るので、
頭が混乱してしまった。最後に明かされる人物も、「え、これって誰だったけ?」状態で、
前に戻って確認したし(アホ)。未発見のピカソとは大きく出たなぁと思いました^^;


『葡萄と乳房』
これは大好きなフジタが題材でとても興奮して読みました。フジタの絵の特徴や画材なんかも
とても勉強になりました。佐月が過去にこんな情熱的な恋愛をしていたとは驚きました。彼女との
苦い別れがあるから、彼はあんなにクールになってしまったんだろうなぁ。佐月が最後に
作ろうとしたものが無駄に終わってしまったのが悲しい。佐月の人間的な感情が見れたのは
嬉しかった。彼も若い頃はいろいろあったということなのね。


『秘画師遺聞』
この前の『葡萄~』を受けての作品。本書は必ず順番通りに作品を読まれることをお薦めします
(まぁ、大抵の人は順番に読むだろうけど^^;)。緊縛画って、一種の淫画ですよね。佐月が
面食らうほど迫力のある緊縛画って、すごそうです・・・^^;多分、淫猥を通り越して、
これも一つの芸術になってるんでしょうね。作者に関してはとにかく驚きました。これを
描いている映像を想像すると壮絶です。描いてる時はさぞかし鬼気迫るものがあったのだろう
なぁ。繭子にデレデレする善ジイには呆れましたが、ラストのからくりを読んで納得。佐月が
繭子に最後にあげるもの、私だったらもらっても困るなぁ・・・^^;でも、彼の想いの深さが
わかった気がしました。



二年五ヶ月前の記事に比べたら字数だけは立派になったけど、内容や文章力は大して
成長してないのが悲しい^^;
それでも、何か感慨深いものを感じながら記事を書きました(お粗末でしたが^^;)。

美術ミステリがお好きな方には是非お薦めしたい一冊です。