ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柳広司/「ジョーカー・ゲーム」/角川書店刊


昭和十二年、陸軍内部に密かに開設されたスパイ養成学校‘D機関’。発足人である結城中佐は、
最終的に十二人の精鋭たちを選び出し、優秀なスパイに育て上げた。彼ら初代のスパイたちの
選抜受験から立ち会ってきた佐久間陸軍中尉は、参謀本部とD機関との連絡係に任命された。
生粋の軍人気質である佐久間は、D機関のメンバーたちの天皇陛下への不敬な態度に唖然とする。
そんな中、アメリカ人技師ジョン・ゴードンがスパイ容疑をかけられ、その証拠を探す任務が
D機関に下される。佐久間は彼らと供にゴードン邸に急襲をかけるのだが――(「ジョーカー・
ゲーム」)。スタイリッシュな極上のスパイ・ミステリー。


去年読んだ『百万のマルコ』が面白かったので他も読まなきゃなーと思いつつ、なんとなく
手が出なかった柳作品。本書は本屋で見かけた時から面白そうだなぁと思ってチェックして
いたものの、地元の図書館で予約に乗り遅れて当分読めそうにないと思っていたのですが、
またしても隣町の図書館の開架で発見。毎度お世話になってます。へこへこ。んで、何で
この本に惹かれたかっていうと、どうやら私はタイトルに『ゲーム』がつく作品に惹かれる
みたいなんですね。この間は桂さんの「平等ゲーム」読んだし(これはまぁ、桂さんというのも
ありましたが)、現在黒武洋さんの「ファイナル・ゲーム」もなんとなくタイトルだけ見て
面白そうだと思って予約中。これはきっとかつての傑作ドラマ「家族ゲーム」の影響なんじゃ・・・
いやいや、子供の頃に田舎でやった「人生ゲーム」の影響かも・・・とかいろいろ原因は
考えられますけれども、とにかく昔からなんちゃらゲームってつくものには妙に食いつくくせ
があるみたいです。『遊び』的な要素が感じられてワクワクするんだな、きっと。

前置き長くてすみません。さて、本書はタイトルからは想像もしてなかったのですが、なんと
スパイ小説でした。スパイもの自体は別にさほど興味の対象ではなかったのですが、これは
とっても面白かった。昭和初期の日本の陸軍内部に密かに立ち上げられたスパイ養成学校
‘D機関’。その中心人物であり『魔王』と呼ばれる結城中佐によって、様々な任務を任命
される精鋭スパイたちの物語5作が収められています。舞台は東京、横浜、上海、ロンドン
とスパイ小説らしくワールドワイド。短編なのでコンパクトに一話がまとめられていて、
文章もとても読みやすい。始めはスパイ小説なんてとっつきにくそうと弱冠引き気味だった
のですが、読み始めたら面白くて一気読みでした。それぞれの話で主人公が変わり、D機関
の人物たちが一人づつクローズアップされていきますが、スパイとしての任務を全うするため、
他の人物になりきっていたりして、その人物像はさほど表に出てきません。それがかえって
スタイリッシュでクールなD機関の性質自体を表している感じで良かったです。ラストの
『XX』の飛崎だけは最後に他の人物たちとは違う選択をしますが、それはそれで人間らしい
人物も混じっていたのだとちょっとほっとしました。

徹底してあらゆる手段を使ってでも任務を遂行するD機関のスパイ行動はただただかっこいい。
スパイというとあまりイメージが良くなかったけれど、『人を殺さない』『自決をしない』という
D機関(というより結城の、かな)の主義がいい。スパイっていえば、失敗したら即自決、とか、
自分の任務の為ならどんなに犠牲を出しても構わない、という不穏なイメージを覆してくれました。

これはかなりツボに来ました。まだ初代の十二人全部出て来てないし、第二期、第三期と
養成してるんだろうから、いくらでも続きが書けそうです。シリーズ化してほしい!
いくつか書評を回っていたら、『トーキョープリズン』を引き合いに出してる人が多かった
のだけど、似た雰囲気なんでしょうか?そういえば、読もう読もうと思って忘れてたなぁ。
読まねば・・・。