ミステリ読書録

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篠田節子/「逃避行」/光文社刊

篠田節子さんの「逃避行」。

更年期を迎えた平凡な主婦、妙子。子宮筋腫のせいで子宮と卵巣を摘出してから体調の不良が
続いていた。しかし、妙子がどんなに体調不良の辛さを訴えても、家族の反応は冷ややかで
大して心配もしてもらえない。そんな妙子の唯一の心のより所が愛犬のポポだった。ポポだけは
妙子を心の底から頼りにし、愛してくれる存在なのだ。しかし、我が子よりも愛していた愛犬が、
隣の家の子供をかみ殺してしまった。普段は性格の優しい穏やかな性格のポポだが、目の前で
癇癪玉をぶつけられパニックになって噛み付いてしまったのだ。ポポは悪くない――しかし、
世間の目は子殺しの犬に冷淡だった。妙子以外の家族もポポは保健所に連れて行くべきだと
主張した。このままではポポは殺されてしまう――妙子は、自分を理解してくれない家族や周りの
全てを捨て、夫の隠し財産の通帳を持ち出して愛犬と供に家を出た。こうして、妙子とポポの
逃避行が始まった。


ずっと気になっていた作家の一人である篠田節子さん。面白そうだなぁと思いつつ、作品数が
多いのでどれから手をつけて良いのかわからず手が出せずにいました。そこで篠田ファンである
なないろしごとのRueさんにお薦めを請うと、心よく教えて下さいました。ありがとうございます^^
本書はその中の一冊。犬好きならば楽しめるのではとのお言葉に食いついたのと、比較的薄いので
読みやすそうかな、と思ったので手に取ってみました。
ただ、私は犬を飼われている人程犬好きの人の気持ちがわかるわけではありません。友人には二人
程熱狂的な犬好きがいるのですが、いつも犬好き同士の会話の中に入り込めず引いている自分が
いたりします^^;犬か猫どちらが好き?と聞かれたら、どちらかといえば犬派に入るだろうとは
思うのですが、猫は猫で可愛いと思いますし、動物は基本的にはだいたい好きなので、ものすごく
犬が好きというのとはちょっと違います。だから、本書の主人公・妙子が我が子よりも犬が可愛い
と思う気持ちにすごく共感できたかと聞かれるとちょっと答えに詰まる。妙子の置かれた状況を
考えれば、彼女がとった手段は十分理解できるし、家族の彼女に対する態度の冷たさに腹が立った
ことも事実ではあるのですが。仕事も資格もなにもない主婦が、何のよりどころもなく大型犬を
連れて逃避行に出る。これは平凡だった主婦にとってはとんでもない無謀な冒険に他ならず、到底
リアリティがあるとは思えないのですが、彼女の波乱万丈な逃避行に一喜一憂しながらぐいぐい
読まされてしまいました。途中の過程は眉をしかめるような部分も多く、読んでいて爽快な気分に
なる作品ではないのですが、逃避行を続ける中で少しづつ逞しくなって行く妙子とポポを次第に
応援してあげたくなりました。お互いをよりどころにする両者の関係が切なかった。次第に老いて
行く愛犬の行く末を思う妙子の気持ちが伝わって来て、動物を飼うということは、絶対にその動物
との辛い別れを経験しなければいけないという現実を思い知らされました。









以下、ラストに触れています。未読の方はご注意を。










ただ、妙子に関しては結局はそれを経験しないで済んだことになるので、それはある意味幸せ
だったのかな、とも思いますが・・・。妙子の体調不良に関しては伏線がちらほらあるので、
こういうラストもありうるのかな、とも思ってはいましたが、ここまで唐突に死が訪れるとは
思わなかった。飼い主に先に死なれてしまったたポポがあまりにも哀れで、悲しくなりました。
ポポもこの後そう長くはもたなかったでしょうけれど、堤が引き取ってあげて最期はきっと
安らかに眠ったのでしょうね。それだけが、救いだったように思います。










妙子自身はそんなに好感の持てる人物像には描かれていないけれども、彼女と愛犬の逃避行を
読んでいるうちに、彼女たちに平穏な生活をさせてあげたいと思うようになりました。できれば
この逃避行の結末がもっと明るかったらよかったのですが・・・。なんだか、悲しいラストに
胸が締め付けられるような気持ちになりました。

ペットを飼われている人は、妙子の気持ちがもっと理解できるのかもしれません。
家族さえ誰一人自分を理解してくれず、唯一の心のより所であったペットが人を殺し、そのペットを
保健所に連れて行くと言われたら――孤独に耐えられずに全てを捨てて、逃避行をしたくなるのかも
しれません。

いろいろと、考えさせられる作品でした。
Rueさん、ご紹介ありがとうございました。