ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

辻村深月/「冷たい校舎の時は止まる 上・下」/講談社文庫刊

辻村深月さんの「冷たい校舎の時は止まる 上・下」。

学園祭の最終日、屋上から一人の生徒が飛び降り自殺をした。それから二ヶ月後のある日、雪の
降る中いつも通り登校した8人の生徒たちは、なぜか学校の外に出られなくなってしまう。
集まった8人の生徒たちは、全員自殺をした生徒の同級生だった。そして、彼らは全ての時計が
5時53分で止まっているのを見て、それが二ヶ月前に飛び降り自殺が起きた時間であることに
気付く。しかし、8人全員、なぜかその自殺した生徒の顔と名前が思い出せなくなっていた。
おそらくその生徒はこの8人の中にいる――。これはその人物が復讐で起こしたことなのか?
第31回メフィスト賞受賞作。



新作のロードムービーがこの作品とリンクしているという情報を得て、急遽古本屋で
購入して読みました。メフィスト賞受賞のデビュー作。ノベルス版が上中下の三冊分冊だった為
なかなか手が出せずにいたので、いい機会だったと思います。図書館で借りれなかったら『ロード~』
の方から読んじゃおうかな、とも思ったのですが、やはりリンク系は順番を守りたいと思い直し、
かなり古本屋巡りをしました。地元の古本屋は全てどこにも売ってなかったので、わざわざ隣街まで
足を伸ばし、二軒回ってここがダメだったら新刊で買うしかないかと諦め半分だった最後のところで
見事発見。上下巻併せて半額で購入できたのでラッキーでした。

さて、読み始めてすぐに思ったのは、「あれ、なんか読んだことある・・・?」でした。だって、
先に読んでいた『名前探しの放課後』に設定がそっくり。一人の生徒が自殺して、それが誰か
思い出せず、同級生がその人物を捜すという。細かい設定はもちろん全然違いますが。個人的には
『名前探し~』はとても好きな作品でしたが、もし、こちらを先に読んでいたら、あの作品をあそこ
まで評価できなかったかもしれません。なんで、こんな似た話を書いたんでしょうか。

上巻を読んでいる時点では、いつもの辻村作品同様、ページは進むのにあまりにも話が進まないこと
にかなりイライラしながら読みました。とにかく、無駄に長い。良く言えば、それぞれの人物像を浮き
上がらせる為に一人一人の心理描写を繊細に丁寧に描いているということになるのでしょうが、正直、
そこまで丁寧に描く必要があったかどうかは疑問。生徒8人それぞれの物語を追う形で、しかも
必ず学園祭最終日のその人物の行動が挟まれるので、「一体何回学園祭最終日を体験させられる
んだーー」とげんなりしました。確かに、それぞれの内面描写は相変わらずリアルでとても上手い。
リーダビリティはデビュー作から健在だな、と思わせられるものはありました。それでも、いくつか
違和感を覚える部分があり、多少はすに構えて読んでしまうところがありました。

ただ、終盤の謎解きを読んで、いろいろ不満を覚えた部分が伏線だったりしたので、かなり
消化不良が解消されたことは確かです。それでも、完全にすっきりしたわけではなかった
のですが^^;

しかし、これ、かなりホラーテイストだったんですね。一人が消えて行く度にぞぞぞ。そして、
その度に「一体自殺したのは誰なのーー!!」と悶えながら読みました。










以下、大々的にネタバレしております。これから読まれる方、絶対に読まれませんように。
















でも。はっきり云って、この真相はアンフェアじゃないだろうか。確かに自殺した生徒に
関しては、自殺したことが意外ではない人物だったけれども、最初の段階で『自殺した
生徒は8人の中にいる』という前提で話が進んでいるだけに、この真相はかなり肩透かしを
食らわされた気分でした。当てられなかったからって負け惜しみ言ってる訳じゃないよ。
だってやっぱり、そういう表記をしちゃった以上、ミステリとしてはフェアじゃない気がする
もん・・・。

『ひまわりの家』のヒロとみーちゃんに関しては、名前から判断してそうかな、というのは
ありました。ただ、そうなると菅原との年齢差がおかしなことになるな、と、そこで菅原の
正体に気付かない辺り、ほんと、ダメダメだ。後から考えると、確かに菅原だけ名前が出て
来てなかったんだよね。でも、菅原の正体もSF的というか、精神世界だからこそ成立する
というのがちょっと腑に落ちなかったです。ホストが作り出した世界だから何でもアリみたいな
真相はあんまり感心しなかったなぁ。多分細かく伏線は張られていたのでしょうけど。

あと、気になったのは深月は何故『ヒロくん』から呼び名が『鷹野』に変ったんでしょうか。
彼女の性格から、苗字を呼び捨てするのって何か似つかわしくない感じがしたのですが。
成長するにつれて、周りを意識してわざと変えたのかな。
友達の呼び方に関しては、他の人物もどこかみんな違和感があったのですけど。清水が
鷹野のことを『鷹野さん』って同級生なのにさんづけするのも変な感じがしたし、鷹野が
大して仲の良くない春子のことを『春子さん』って呼ぶのもなんか不思議でした。それぞれ
友達のことをちょっとづつ違和感がある呼び方してるのが少しひっかかりました(私だけかな)。





全体通して重く寒々しい雰囲気の作品だったけれど、ラストは爽やかに終わってよかったです。
文句もつけたけれど、真相はいつも通り『やられた!』と思いましたし、デビュー作でこれだけの
水準の作品を書けるというのはやっぱりさすがだと思う。ただ、やっぱり欲を云えばもうちょっと
コンパクトにまとめて欲しかったですね。途中何度『な、なげーよ・・・』と叫びたくなった
ことか・・・。文庫で上下巻併せて1100ページ以上ですからね^^;;

まぁ、とにかく、これで心置きなく『ロードムービー』が読めるってものです。もう手元に
あるので、登場人物を鮮明に覚えているうちに、これから続けて読み始めるつもりです。
えへへ。楽しみだ。