ミステリ読書録

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今野敏/「果断 隠蔽捜査2」/新潮社刊

今野敏さんの「果断 隠蔽捜査2」。

大森署の署長に異動になった竜崎。高輪署管内で強盗事件が発生し、緊急配備の措置が取られた。
犯人は三人組で、二手に分かれて逃走、うち二人の身柄を確保した。しかし、残りの一人は
逃がしたままだった。一方、大森署管内では小料理屋で、拳銃を所持した強盗犯による立て籠もり
事件が発生。小料理屋の夫婦二人が人質に取られていた。犯人は高輪署で起きた強盗事件で逃走した
人物だった。現場で指揮を執る竜崎は、突入の権限を現場慣れしているSIT(捜査一課特殊班)
に譲る。緊迫した状態が続く中、石渡小隊長の合図により突入し、事件は犯人射殺により早期解決。
しかし、その後の捜査で、突入時に犯人の銃には空の薬莢しか入っていなかったことがわかり、
警察は非難の対象に。竜崎は責任を負わされる立場になるが、事件の状況の不審な点に気付き、捜査
の洗い直しをすることに――。竜崎シリーズ第二弾。


面白かった。今回は竜崎のキャラに馴染んでいたので、冒頭からすんなり入って行けました。
最初の強盗事件もその後の立て籠もり事件も割とあっさり解決してしまうので、ちょっと
拍子抜けした部分はあったのですが、作品の狙いはその後の立て籠もり事件の真相解明にあった
ことがわかり溜飲が下がりました。一人の人物のちょっとした違和感から事件が全く違う様相を
見せ始める過程がとても面白かった。竜崎同様、戸高は前作では全然いいイメージがなかったの
ですが、本書の活躍でそのイメージがひっくり返されました。誰も気付かなかった立て籠もり事件の
おかしな点に気付く鋭さを持っているし、竜崎を前にしても態度があまり変わらない強かさもあって、
かなり切れる人物という印象。今後竜崎のいい片腕になりそうな気配が・・・。結構いいコンビだと
思うけどな。

伊丹との関係も変わってなくてほっとしました。伊丹は前作で自殺しようとまで思いつめたとは
思えない颯爽とした刑事部長っぷりで、かなり偉そうになってるのが気になりましたが^^;
でも、そんな伊丹の颯爽とした部分を竜崎が密かに嫉妬したりするところが可笑しい。多分、
この二人はお互いに自分にないものを相手に認めて複雑な感情を抱えているのでしょうね。
階級は違っても、伊丹も竜崎にコンプレックスを感じずにはいられないんだろうなって思う。
竜崎は、人に劣等感を抱かせずにいられないものを持ってる人だから。防犯対策懇談会に出席して、
頭の固い小中学校のPTA役員をやり込めるシーンは爽快でした。自慢するでもなくさらりと
東大法学部卒を口にして、相手を絶句させる場面は最高にすかっとしました。普通はそこで「嫌味
なやつ・・・」って思うとこなんだけど、竜崎が口にすると嫌味に聞こえないから不思議。しつけ
についてPTAたちにつきつける竜崎の言葉も、いいぞー、よくぞ言ってくれました!って思い
ました。最近問題になってるモンスターペアレンツたちに聞かせてやりたいですね。まぁ、家庭を
持ってない私が言うことじゃないかもしれませんけど^^;

終盤で、竜崎が周りの人間から慕われていたことがわかるシーンも好きでした。信頼に足る人物
であると、とっくに周りの人間は竜崎のことを見抜いていた。上に立つ人間が尊敬できれば、下で
動く人間も自信を持って動ける。こういう上下関係が理想ですよね。実際はそうでないことの
方がずっと多いけど^^;竜崎は周りの人間にとても恵まれていますね。でも、それは竜崎
自身が信頼できる人物だからというのが大きいとは思いますけど。

今回驚いたのは竜崎があのアニメのDVDで感動するところです。あれはもちろん宮○駿監督の
ナウ○カですよね。あの映画を観て感動できる感性があるとは。やっぱり、竜崎は素晴らしい。
父親としても、また一回り大きくなった感じがしました。

冴子さんのことは竜崎同様とても心配でしたが、身体が弱って病院にいても毅然とした態度を
崩さない冴子さんはさすがだな、と思いました。普通、身体が弱っていたら少しは弱気になったり
すると思うんですが。竜崎は警察の仕事、自分は家庭を守ることが一番優先すべき大事なこと。
こんな風に割り切れる人ってなかなかいないと思う。やっぱりかっこいい!ラスト2ページの
夫婦の会話がいいですね。「今日は許してあげます。しばらくここにいていいですよ」
台詞が好き。
二人きりになって照れる竜崎がちょっと可愛い。なんだかんだで愛ですねぇ。この夫婦はずっと
このまんまでいて欲しいです。

エリートキャリアの警察官の既存のイメージをぶち壊してくれたこのシリーズ。まだまだ続きが
読みたいです。変人・竜崎にはこの先も変わらず突っ走り続けて欲しいな。