ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

曽根圭介/「あげくの果て」/角川書店刊

曽根圭介さんの「あげくの果て」。

「借りたものは返せ」。最愛の美鈴の家に遊びに来ている最中、借金取りがやってきて僕らは
捉えられてしまった。元カノの美鈴のことは今でも愛しているが、今や彼女は藤堂の妻だ。二人
とは学生時代からの付き合いだが、胸中は複雑だ。美鈴は騙されて藤堂の妻にされたのだ。借金
取りは、暴力をふるい、脅迫してくる。切羽つまった藤堂は、なんとか工面すると出かけて行った。
おそらく、美鈴の実家に無心に行ったのだろう。タイムリミットは二時間後。果たして奴は戻って
来るのか?一方、巷では女性を車で拉致し、レイプして殺害する‘切り裂きタマちゃん’が世間
の関心を集めていた――錯綜する出来事の裏に隠された驚愕の真実とは?(『熱帯夜』)


乱歩賞受賞の「沈底魚」はあまりいい評判を聞かず、読んだ友人もイマイチと言っていたので
読む気にならなかったのだけれど、日本ホラー小説大賞の短編賞を獲った『鼻』がお仲間ブロガー
さんの評価が高くて読みたいなぁと思っていたところに、開架で著者の新作を発見。あれ、
まだ出たばっかだよね・・・とちょっと驚きましたが、ラッキーでした。それにしても
表紙のインパクトがすごい。見た瞬間「た、高○ブー!?」っておもっちゃったんだけど・・・。
家には置いときたくないなぁ、コレ・・・。

まず、文章がとても読みやすくて驚いた。簡潔に書かれているのに、内容が薄い感じがしない。
これは相当技巧力があるのでは、と思っていたら、作品構成の上手さにも唸らされました。
一作目の『熱帯夜』は特に作者のトリッキーな構成力で読ませる作品だったと思う。いくつもの
要素が複雑に絡みあって、ラストで驚くべき真実が明るみに出る。時系列を微妙にずらす所も
にくい。主人公に関してはなんとなく予測はついたのだけど、外の自動車事故の方に関しては
完全に騙されてました。時系列を整理して読むとからくりがわかりやすいですが、この構成に
なっていることで、完全に翻弄されてしまいました。

表題作であるニ作目の『あげくの果て』は、現在の高齢化社会問題を極端化した意欲作。実は
途中まではあんまり好みの作品ではなかった。高齢化した日本を若齢化させる為に、老人を
戦争に行かせる。若者が老人を憎み、平気で殺そうとする。なんだか、気が滅入るような設定
で、読んでいて嫌悪感ばかり覚えました。でも、終盤でそれぞれの視点の人物たちの人間関係に
気付き、それぞれの人物がある一人の人物の為に行動を起こしていたことを知り、胸が熱くなり
ました。ただ、普通はそこで「いい話」で終わるところを、そうしないのがこの方の作風なんだ
ろうな。それぞれの思惑が結局はすれ違い、結末は苦い。ただ、このラストで意味深に提示されて
いる『ある事実』をどう受け止めればいいのでしょうか。少し、明るいラストって捉えていいの
かなぁ。それとも、逆?読者の捉え方次第、ということなのかな。

ラストの『最後の言い訳』も上手いです。上手いけど、あまりの黒さにげんなりしてしまった。
そして、かなり読んでて気持ち悪かったです。グロ系が苦手な人はやめておいた方がいいかも・・・。
‘蘇生者’という設定は小野不由美さんの『屍鬼』を思い出しました。伝染するっていうのも
似てるし。ただ、こちらの方がずっと気持ち悪い。だって、生きた○○食べちゃうんだもん・・・。
主人公の父親が犠牲になるシーンは強烈。ソレを求めて行列する人・・・うぎゃーーー。
ラストがすごいね。主人公が勇猛果敢に・・・と思いきや、だもんねぇ。ああ、黒い。怖い。
でも、このオチにこそ、この人の巧さが表れているのかもしれない。


どれもかなり黒いですが、完成度は高い。読ませる力は相当ある方だと思いました。
本の装丁といい、作風といい、平山夢明さんを彷彿とさせました。グロさはあそこまでじゃ
ないけど^^;
今後要注目の作家さんになりそう。次は『鼻』を読まなければ。評判イマイチの『沈底魚』も
そのうち借りてみようかなぁ。