ミステリ読書録

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大崎梢/「夏のくじら」/文藝春秋刊

大崎梢さんの「夏のくじら」。

東京から高知の大学を受け、祖父母の元で暮らすことになった守山篤史。胸中には、4年前に
よさこい祭で出会い、突然姿を消した一人の女性への思いが捨て切れずに残っていた。その時の
苦い経験から、よさこいに対して複雑な思いを抱えていたが、従弟の多郎の強引な誘いを受け、
町内会の鯨井町チームの一員として踊りに参加することに。熱く厳しい練習をこなしながら、
篤史はチームメイトの協力のもと、あの時の心残りを果たす為、憧れの女性を捜すことに。
高知の熱い夏が今、始まる――。


読み残しの大崎作品。実は記事にはしてませんが、『天才探偵Sen』の二巻目もすでに読了済み。
多分他には出てないと思うけど、『天才探偵Sen』も出てたこと自体全然知らなかったからなぁ。
私が知らない作品が他にもまだあったりして^^;

本書は高知のよさこいがテーマの青春小説。『よさこい』自体がいまひとつよくわからず、
なんとなく敬遠してた作品ではあったのですが、世間の評判はいいようだし、一冊だけ読み逃しが
あるのもなんとなく気持ちが悪いので手に取ってみました。
実は姪っ子が『よさこいソーラン節』の地域サークルみたいなものに入っているので、そちらの方
はなんとなく身近ではあるのですが(でも実は一度も踊っているところを見たことがない^^;)、
本場の『よさこい』は全く未知の世界。本書でも踊りの具体的な描写というのはあまり出て来ない
ので、一体どんな振り付けの踊りなのかはいまいちよくわからなかったです。鳴子というしゃもじ
みたいなものを持って踊るという知識くらいはあるのですが、本場高知の『よさこい祭』がこんなに
熱いものだとは驚きでした。
よさこい』を理解させるためには仕方のないことだとは思うのですが、説明描写が結構くどくて
ストーリーのテンポ良さを消してしまっていたところは残念。篤史の人捜しも終盤まではちっとも
進展を見せず、ちょっとイライラしました。ただ、鯨井町チームのみんなはキャラが立っているし、
彼らの『よさこい』に懸ける真剣さや熱さはひしひしと伝わって来ました。大学生のひと夏の青春が
実に爽やかに描かれていて、眩しく思いながら読みました。どんなものでも、真剣に打ち込める
ものがあるというのは素晴らしいことだと思う。自分の大学時代に、こんなに真剣に一つのことに
取り組んだものがあっただろうか。そう考えると、ちょっと寂しい気持ちになります。若い時に
経験するのと、齢をとってから経験するのとでは全然違う。篤史みたいに、たった一人の人を4年
も想い続けて捜し出そうとすることも、若いからこそ出来ることだって気がする。きっと、大人に
なったらいろんなことを諦めて妥協して生きて行かなきゃいけないから。だから、彼のストレートな
恋愛感情はすごく眩しかったし、羨ましかった。クライマックスのよさこい祭でのシーンは彼の
ドキドキする気持ちがダイレクトに伝わってきて、こちらまでドキドキしてしまいました。彼の
『いずみさん』の正体が明らかにされて行く過程も良かったですね。一体どんなラストになるの
やら・・・と思ってましたが、彼の恋はここからがスタートなんでしょう。どうなるんだろうなぁ、
これから。この続きが気になる。いい方に向かって行きそうな気配はあるけれどね。

よさこい』という馴染みのない題材を、ここまで読ませる小説に仕上げた手腕はなかなかです。
出来ることなら高知に行って本物のよさこい祭を体験できたら、きっともっとよさこいの踊りの
情景がリアルに想像できるのになーと残念に思いました。単なる地方の伝統踊りってだけでは
ないのだろうなぁ。どうも、東京音頭とかの盆踊りみたいなのとか、ソーラン節みたいな振りを
想像してしまうのだけれど^^;高知の人に怒られそうだ^^;;

しかし、何故突然『よさこい』なんだろう?と不思議に思っていたらば、大崎さんの旦那さまの
郷里が高知県なのだそう。きっとそこで見たよさこい祭に感化されたのでしょうね。なるほどー!
と思いました。

とにかく、こちらが恥ずかしくなってくるような直球の青春小説です。高知の熱い夏の風と
日差しが肌で感じられるような、清清しい読後感でした。