ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恒川光太郎/「草祭」/新潮社刊

恒川光太郎さんの「草祭」。

美奥第二中学校の三年生である雄也の元に、ある日の夜、同級生の椎野春の父親からもたらされた
電話は『春がいなくなった』と彼の行方を問うものであった。父親には心当たりがないと答えた
雄也であったが、頭には一つの過去の映像が浮かんでいた。小学5年の時、水路を辿って春と迷い
込んだ異形の土地 < けものはら >。春と雄也を襲った黒い影――いなくなった春はそこにいるの
ではないか?雄也は数年ぶりに春を捜して再びその土地を訪れる。そして、そこで見つけたもの
とは――異形の土地『美奥』で起きる不可思議な物語たち。圧倒的筆致で描かれるホラー
ファンタジーの傑作。


うおーーー!良かったーー!!これ好き!!今回も素晴らしい恒川ワールド全開です。新聞広告で
内容紹介を見た時から『これは絶対好みだ』と思っていたので読むのを楽しみにしていたのですが、
その通りでした。異形の土地『美奥』を舞台にした連作集。といっても、登場人物が重複するのは
一作目と二作目くらい(それもほんの一部だし)。主人公も時代もその都度変わり、どの話も全く
違うテイストで、でも『美奥』という妖しい土地が舞台になっていることで散漫な印象がありません。
水路を辿って行き着いた異界の土地『美奥』。極端に言ってしまえば、この作品の本当の主役は
『美奥』という土地自体に他ならないのでしょう。三作目で明らかにされるこの土地の成り立ち
を知って、余計にそう思いました。この三作目のラストにはかなり意表をつかれました。この作者の
イマジネーションの豊富さには毎回ながら驚かされます。なんでこういう物語が思いつくんだろ。
全体通してブラックテイストなのに、どこかユーモアを感じさせる独特の世界観。ああ、好きだ。
どの話も、どこに着地点が向かうのか全く見えない。そして、予想は裏切られ、思わぬラストに
戸惑いと不安の混ざった不穏な感情を抱かせる。でも、それは決して不快な読後感じゃない。そ
れが例えブラックな結末であっても。そこが恒川作品のすごいところだと思う。なぜか暗くて
不気味で妖しい世界観を受け入れている自分がいる。自分も『美奥』の土地と同化しているせい
かもしれない。




以下、各作品の短評。


けものみち
水路を辿った先にある < けものはら >、そこで出会う得体の知れない『のらぬら』。もう、
これだけで恒川ワールドそのまんまって感じなんですが、春の母親の○○がいきなり出てきた時
には面食らいました。春と母親の出来事の真相といい、ミステリとしても読ませてくれます。
雄也と春の間に出来た大きな隔たり。雄也と春はそれでも『友達』なんでしょうか。



『屋根猩猩
いじめをいじめとも受け取らず、あっけらかんとした主人公の性格がいい。『バカトラ』
は良かったなー。絶対傑作だね。ほんとに、出版して欲しい!って思ってしまいました(笑)。
屋根の上をふわりふわりと舞う獅子舞のイメージはなんだか想像すると笑ってしまう。地域限定の
守り神という設定が面白いですね。なんだか全体的に微妙にブラックなとこが恒川さんです(苦笑)。



『くさのゆめがたり』
一作目二作目が一部登場人物が重複していたので、ここで時代背景も世界観も全く変わるので
連作短編じゃないのかな?と初めは思ったのですが、途中のある文章を読んで『もしかして・・・』
と思ったら、ちゃんと『美奥』で繋がってました。『美奥』の土地に隠された恐るべき過去には
ほんとにのけぞりました。ラストの主人公の行動があまりにも酷くて最初は理解できませんでしたが、
その後の文章を読んで、彼がやりたかったことが見えて来ました。恐るべし、『クサナギ』・・・。



『天化の宿』
これは読んでいて一番面白かったです。とにかく『天化』という設定が秀逸。というか、めちゃ
くちゃ面白そう。やってみたい。恩田さんの『いのちのパレード』に出て来た『SUGOROKU』を
思い出しました。しかし、天化をやり遂げて苦しみを全て解いた人間の結末は・・・そう来たかー!
と思いました。く、黒い。おじぞうさんにそんな意味があったとは。やっぱり、途中リタイアが
良さそうです^^;;



『朝の朧町』
『のらぬら』や『クサナギ』が出て来て、美奥の土地で起きる怪異の総まとめ的な作品かな。
長船さんと主人公の不思議な関係が良かったです。なんだか哀愁漂う作品。鴉のくれたガラス玉
の中で町を作った長船さん。そこでずっと生きるために『クサナギ』を飲んだ・・・。読んで
いて切なくなってしまいました。優しくて子供のような人。ところで、最初と最後に出て来る
『愛』ちゃんは一作目と二作目に出て来る『佐藤愛』のことでしょうか。一作目で母親が『よそから
来た人なのに美奥に妙に詳しい』って言ってるから、やっぱりそうかな。父親って誰なんだろうか。




恒川ワールド全開です。堪能した~~!個人的には『秋の牢獄』よりも上だと思う。読み始めたら
止まらなくなって、昨日はブログもお休みして最後まで読み通してしまった。
恒川ファンなら絶対間違いなく楽しめる作品です(断言)。早くみんなにも読んで欲しい!
一つ疑問はタイトルなんだけど・・・どこから来てるんだろ?読まれた方のご意見、お待ち
しております(他力本願^^;;)。