ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

黒武洋/「ファイナル・ゲーム」/角川書店刊

黒武洋さんの「ファイナル・ゲーム」。

大学時代の『試全倶楽部』のメンバーが7年ぶりに集められた。全てを試すという意味で結成
された集まりだが、貫太郎にとっては苦い思い出が多く、召集に憂鬱な気持ちでいた。しかも、
倶楽部のメンバーたちは社会に出て立派に生活しているが、勤めた商社をドロップアウトした後、
ニートになり社会の脱落者に成り下がっている身分で、彼らと会うのに気後れしていた。しかし、
倶楽部の主催者であるサクこと桜の号令は絶対で、従わざるを得なかった。サクによって集められた
5人は絶海の孤島に連れて行かれ、サクの父親が経営する会社の研究施設に閉じ込められてしまう。
その場に置かれたトランシーバーから聞こえて来たサクからの指示は、「5人で『最後の戦い』を
始めろ」というものだった。5人の中にはサクの協力者である『犬』が混ざっているという。
お互いに疑心暗鬼に駆られる中、戦慄の殺人ゲームが幕を開けた――。


たいして予備知識もないまま、『ゲーム』がつくタイトルに惹かれてなんとなく借りてみました。
黒武作品を読むのは初めて。実は出版当時世間の話題をさらった『そして粛清の扉を』は借りたい
時に予約が多くて借りれず、開架に並ぶようになった頃には読む気が失せてしまった作品。私は
読みたい時に読めないと結構こうなってしまうことが多い。読み時って大事だなぁと思う。ただ、
先日読んだ湊かなえさんの『告白』よりも上という評価を聞いて、読まなければと思っている
ところではありますが(過去に何度も開架で見かけているのに、借りようと思う時にはなぜか
置いてなかったりしてなかなかタイミングが合いませんが^^;)。

さて、本書。孤島に閉じ込められた学生時代の友人5人が、リーダーの一人の思惑によって
殺し合いを開始し、一人づつ仲間が減って行くという、割と設定はオーソドックスなクローズド
サークルもの。いわゆる「そして誰もいなくなった」形式とでもいいましょうか。ただ、基本
設定がどうも腑に落ちないものが多く、展開もさほど目新しいものがある訳ではないので、
なんとなく乗り切れないまま物語が進んで行く感じでした。そもそも、『試全倶楽部』という
会自体の存在理由が理解しがたく、彼らの関係もとうてい『友達』とは思えない。やってる
ことは一人の人間をターゲットにした『イジメ』でしかないことばかりだし。彼らの過去の
活動内容は嫌悪を感じるばかりでした。リーダーのサクのキャラ造詣もその時々で一致せず、
終盤で明かされる彼が今回の『ファイナル・ゲーム』を企画した理由も全く理解不能で、その
人間性を疑うばかりでした。一人一人仲間が減って行き、最後の一人になった後には一応の
どんでん返しみたいなものはありますが、これも割と使い古された感のある展開で、その後
にももう一ひねり欲しかったな、という感じ。『試全倶楽部』のメンバーたちが誰一人として
好感が持てず、どの人物にも全く共感できなかったのも致命的でした。ただ、リーダビリティは
あるので、いちいち嫌悪を感じながらも最後までぐいぐい読ませられてしまいました。
なるほど、実力はある方なのかな、とは感じました。

全体通して終始嫌悪を感じる作品だったのに、なぜかラストだけはちょっと爽やか。これも
この作品のラストとしてはどうなのかなぁとは思いましたが、多少は救いのあるラストで
読後感はそれほど悪くならなかったので評価するべきなのかなぁ。でも、なんとなく『告白』
みたいにラストまで黒さを徹底してくれた方が作品としての締まりはあったような気もする
のですが・・・。これは読んだ人によって受け取り方が違うかもしれません。

退屈だとは思わなかったのですが、この手のミステリの王道の殻を突き破るような展開はなく、
あまり記憶に残る作品とはならなそうです^^;それなりに読ませられちゃったけど。

とりあえず、早く衝撃作と言われる『そして粛清~』を読んでみようと思います。他の作品を
読むかはそれから判断したいですね。