ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

久保寺健彦/「すべての若き野郎ども」/講談社刊

久保寺健彦さんの「すべての若き野郎ども」。

阿修羅特攻隊長だった恭平は、16歳のある夜、集会に参加する途中に15歳だった達夫と
出会ってケンカになり、簡単にやり込められてしまう。そのことがきっかけで、ノルマとルール
に縛られた暴走族にいるのが嫌になった恭平はそれ相応の報復を受けて族を抜け、不思議な魅力
をかもし出す達夫と行動を供にすることに。『天下統一を目指す』という達夫はちゃめちゃな言動
に振り回されながらも、恭平は達夫といるのが好きだった。しかし、やりたい放題に喧嘩をしまくる
達夫の行動は街の不良たちの反感を買い、二人は彼らに目をつけられてしまう。次々とピンチに
さらされる二人の運命は――?


「みなさん、さようなら」がなかなかの快作だったので、新作も借りてみました。これまた
なかなかに痛快な青春小説でした。主人公の二人の言動は若さゆえのバカさとでもいうのか、
呆れることばかり。そもそも喧嘩で天下統一するなんて言ってる時点でアホまるだしってのが
丸わかりだったりするのですが、彼らが真剣なのでなんだか憎めない。しかも、達夫は滅茶苦茶
やってる割にきちんと学校に行っているし、親不孝は養ってもらってるからしない、恐喝は相手が
可哀想だからやらないとか、根がいいやつなのがわかるようなルールの元で無茶をやっているもの
だから、なんだか好感が持ててしまう。中学中退の恭平に高校卒業認定試験を受けろとか、
まともなアドバイスをしたりするし。喧嘩だって向こうからふっかけられたものを受けるだけで、
自分からふっかけたりもしないし。変なポリシーのある不良というか。面白いキャラだなぁと
思いました。恭平は恭平で、達夫に頼まれた調べ物をする為本を読み漁ったり、きちんと
レポートに仕上げたり、中学中退の割に知能の高さが感じられたりして、普通の不良とは一味
違う性格。二章でいきなり少年院に入っているのには驚きましたが・・・^^;それまでの展開が
一気に違う方面に進んで行く場面がいくつかあって、その度に驚かされました。これは久保寺
さんの特徴なのかなぁ。唐突といえば唐突なのですが、結構インパクトがあってどきりとさせ
られるところは巧いなぁと感じます。

『恋人は鎌倉人』『スチュワート家のクリスマス』供に、設定の奇抜さに目が点になりました。
『恋人~』の方は、高校生にして怪しげなスピリチュエルをふりかざす少女の言動には空恐ろしい
ものを感じました。でも、恭平に起こったあの奇妙な体験は何だったのでしょうか・・・^^;
『スチュワート~』は、美容院を一ヶ月だけアメリカンバーに変えるという設定自体がかなり
無理があり、いまいち入り込めなかったです。従業員もお客もアメリカ人になりきるというのも
よくわからなかった。これならメイドカフェとかホストクラブの方がまだわかりやすかった気が
するなぁ・・・。
まぁ、一番わからなかったのは『ウルトラセブン』のおじさんですけど・・・。暗い過去を
背負っているらしいので、その辺りもうちょっと書いて欲しかったなぁ。でも、終盤でいきなり
姿を見せた時はびっくりしました(一瞬でいなくなっちゃったけど・・・なんだったんだ^^;)。

全部がハチャメチャで、若いなぁ、青いなぁと思いながら読んでました。ラストは出来すぎ感が
なくもなかったけど、恭平が「働くことの意味」が見出せず足掻きながらも、最後には自分の
やりたいことを見つけ、成長して行く所は爽やかでした。達夫の選んだ道も、いかにも彼らしくて
応援したくなりました。なんだかほんとに、彼ならその世界で10年後に天下統一してそうだ。
そんな風に思わせてしまうところが、達夫の魅力なんだろうな。二人のうち、好みなのは恭平の方
だけどさ。

二人とともに、突っ走って読んだ感じ。途中、暴力描写に眉を顰めたり、強引な設定に引いたり
しながらも、スピードに乗って読まされてしまった。なんだか痛快で爽快。そんな作品でした。
冒頭の一文で『もしかしてそっち系の話!?』と一瞬焦りましたが、違ってて良かったです。
紛らわしいよ、恭平くん・・・。

同作者の最新刊も予約が回って来ているので、近々読む予定。なんか、はまりそうだぞ、
久保寺さん。