ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

連城三紀彦/「造花の蜜」/角川春樹事務所刊

連城三紀彦さんの「造花の蜜」。

息子の圭太が蜂に刺されて病院に運ばれたと幼稚園から連絡を受けた小川佳奈子。父親の工場の
従業員の青年・川田の車で病院に向かおうとするが、一月前にスーパーで圭太が誘拐未遂に遭った
こともあり、不審に思い改めて幼稚園に電話をしてみると、予想外の返答が返ってきた。慌てて
幼稚園に向かうと、圭太は何者かによって連れ去られた後だった。幼稚園の職員に詰め寄る佳奈子に、
その人物は、圭太を連れ去ったのは佳奈子自身だったと衝撃的な言葉を告げた――前代未聞の誘拐劇、
そのからくりと犯人の真意とは?新聞連載に加筆修正を加えた渾身の長編ミステリー。


もねさんが読んでらして気になっていた本書。各ミステリランキングでもそこそこの位置に
つけていて、ミステリ好きにはかなり好評価を得ているようだったので読みたいなーと思って
いたところ、開架で発見。連城作品を読むのは『人間動物園』以来の二作目。あれもラスト
仰天の誘拐ものでしたが、本書もあちらに匹敵するような前代未聞の誘拐劇を描いた作品でした。
総ページ数485ページとかなりのボリュームですが、まったくからくりの見えない誘拐劇が
どうなるのか気になってほぼノンストップで読んでしまいました。新聞連載、しかも複数の
新聞でリレー形式に連載されたというかなり変わった作品だったようで、その弊害なのか、
所々で矛盾する表記があるのがひっかかりました。東野さんばりのファム・ファタルである
水絵の外見も、始めに『美人ではない』と断言した表現をしているのに、その後で『美人』
であるという表記が何度も出て来る。一体どっちだよ!っとツッコミたくなりました^^;
それに、誘拐の被害者である佳奈子も、歯科医院で働いていた自分の身分を『看護師』と紹介
しているのは変だと思いました。歯科医院で働く女性であれば『歯科衛生士』か『歯科助手
でしかあり得ないわけで、看護師と紹介することはまずないと思うのですが・・・。同じ業界
なんでこの辺りはどうしても気になっちゃうんですぅ・・・。

というわけで、文章的には弱冠難ありと思ったものの、誘拐事件の真相には素直に感心。
なかなか複雑に仕組まれたからくりが隠されて、犯人の手口の巧妙さには舌を巻きました。
まぁ、疑問に思う部分はいくつも残っているのですが・・・。伏線らしきものが伏線で
なかった箇所も結構あったような。恩田さんの『きのうの世界』同様、新聞連載だから
その辺りの辻褄を合わせるのは大変なのかなぁ。
ラストの二つ目の誘拐事件については、単純に騙されました。なるほど、これが帯で派手に
謳っている『どんでん返し』なのね。手法は古典的ではありますが、まんまとひっかかり
ました。でも、この部分、必要だったのかなぁ、という気はする・・・。ページ数のバランス
的にも、とってつけたような印象になってしまっていて、何か全体的に据わりの悪い読後感に
なってしまったような。確かに騙されたのは間違いないのですが・・・。








以下、ネタバレしてます。腑に落ちなかった点を上げてますので、未読の方はご注意を。













結局、交差点にばらまいた血液はどうやって入手した?仲間の中に医療関係者がいたのかなぁ。


川田が飼っていた蜜蜂がいなくなったのは何故?その割に、その後で蜜蜂を使った犯罪が
行われているということは、蜜蜂は戻って来ていたということ?


佳奈子の元夫の隣人が犯人と繋がっているのではないかという意味深な伏線は何だった?
隣人の夫の発言もかなり意味ありげだったのに・・・。


他にもいくつかあった気がするんだけど^^;











うーん。読んでる時は面白かったんだけど、振り返ってみるとすっきりしない部分が
多かったような。でも誘拐ものとしてはなかなか新しい着眼点で面白く読みました。
全体的にちょっと冗長な印象があったので、もう少しコンパクトになってたらもっと
良かったかな。退屈に感じたりはしなかったですけどね。