ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東野圭吾/「怪笑小説」/集英社刊

東野圭吾さんの「怪笑小説」。

夜の八時を過ぎた私鉄の急行列車。空いた席を巡って繰り広げられる熾烈な本音合戦。夜の列車は
鬱屈した人たちの巣窟だった――(『鬱積電車』)。ブラックユーモア炸裂の9編を収録。


去年最後に読んだ本。最後の最後でブラックなの読んじゃったなーって感じでしたが、面白
かった~!多分○○小説シリーズで唯一読み逃していた作品(のはず)。どれを読んでないのか
イマイチ把握してなかったので、いちかばちか借りてみたのだけど、どうやらどの話も読んだ
覚えがなかったのでビンゴだったようです。東野さんのブラックな部分が炸裂してますね。
この手のブラックユーモアな作品は大好き。それぞれのオチもひねりが効いていていいですね。
笑えるもの、皮肉なもの、怖いもの、ユーモアに富んでいて楽しめました。各短編ごとに
東野さんのあとがきコメントがついているのも面白い。
今年も『未読の東野作品を減らすぞ』キャンペーン、地味に続行して行くつもりでございます。


では、各作品の短評をば。


『鬱積電車』
やー、黒いけど、かなりリアリティありますね、これは。空席を巡っての熾烈なバトルは、
実際通勤されている方なんかは日常茶飯事なのでは。電車の中で迷惑な人ってほんと多い
ですもんね。よくぞここまで書いてくれました!って感じ。でも、オチの後に繰り広げられる
光景を想像すると・・・多分大惨劇だろな^^;;


『おっかけバアさん』
これもリアルですね。もちろん杉平のことは杉サマを思い浮かべて読んでました。最近だと
ヨ○様を始めとする韓流男性タレントに熱を上げるおばさまたちなら主人公のシゲ子には
かなり共感できそう。私にはそこまで入れあげるタレントや歌手がいないからよくわからない
けど。ラストシーン、ホラーだよ、これ・・・怖っ^^;;


『一徹おやじ』
これは好き。はっきり云って普通に考えたら父親の言動はムカつくし自分の子供を何だと
思ってるんだ!って憤りそうなんだけど、父親があまりに真剣だからなぜか憎めない。
養成ギプスを自分でつけて偉い目に遭う辺りなんてぷぷぷと笑ってしまった。オチが
こう来るとは!でも、語り手がゴルフで大成したのかどうかまで書いてくれてたらもっと
良かったな。


『逆転同窓会』
生徒が大成しちゃうと、先生も嫉妬するものなんでしょうか。そういえば、去年中学の同窓会の
話があったけど、行かなかったっけ。あとがき読んで、東野さんがそこまで教師という存在を
嫌っていることに驚きました。私はいい教師もいれば嫌いな教師もいたけど、やっぱり感謝して
いる先生の方が多いかも。


『超たぬき理論』
面白かったけど、ラストのオチは冒頭でピンときてしまった^^;UFO=空飛ぶタヌキ説を真剣に
唱える主人公に大ウケ。主人公とUFO専門家の言論対決はバカバカしくも一読の価値あり。
京極さんが大好きなんだそうです、この作品。わかる気がするなぁ。


無人大相撲中継
実際、芸能人でこういう才能がある人がいましたね。確か競馬の実況中継だったと思いますけど。
ラストは黒いです。正直すぎたが故にこの仕打ち。酷すぎる・・・。ある意味ホラーです。
これも京極さんが好きそうだ(笑)。


『しかばね台分譲住宅』
マンションとか家なんて大きな買い物をした人たちにとって、土地の下落や高騰は一喜一憂の
もとなんでしょうね。私には縁がないけれど・・・。結局ここに出て来た死体自体の謎は全く
不明なままですが、彼らにとってはそんなのどうでもいい瑣末事なんだろうな・・・でも
こんな住宅地には住みたくないです^^;;


『あるジーサンに線香を』
これは切ないですね。『老い』というのは若い時は他人事だけど、どんな人にも必ずやって
来るわけで、三十路を超えてからは私もかなり身近に感じます。主人公のように年とってから
若返ることを経験してしまったら、その後の急激な老いには恐怖を感じるでしょうね。ラストは
悲しすぎる。私もこんな風に死を迎えたらどうしよう・・・。最近亡くなったある女性タレント
さんを思い出しました。


『動物家族』
一年の締めくくりにこんなブラックな作品を読んでしまった・・・と後悔したくなる位、
ラストは黒かった。でも、主人公の境遇を読んでいると、憎悪が積み重なって行くのも
わかりました。こんな家族なら私だっていらないよ・・・。私が主人公の家族だったら、
主人公には私がどう見えるのかなぁ。蛇でないことを祈る・・・。後味は最悪だけど、
短編としての出来は秀逸。




このシリーズはやっぱり短編ならではの上手さが出ていて好きですね。
シニカルでブラックな東野さんが全面に出ている怪作。
面白かったです。