ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

七河迦南/「七つの海を照らす星」/東京創元社刊

七河迦南さんの「七つの海を照らす星」。

児童福祉法に基づく児童擁護施設『七海学園』で保育士として働く北沢春菜。仕事が恋人と
頑張って来たが、最近学園の生徒の一人に手を焼いている。中学二年の葉子は、周りの誰とも
馴染めず、孤立していた。しかも生徒の中では、彼女には以前七海学園で死んだ先輩の霊が
とり憑いているなどという噂が立っていた。周りから児童相談所の担当者に相談することを
勧められた春菜だったが、今までの児童相談所の対応に不満を覚えていた春菜は気が進まな
かった。しかし、葉子の担当である海王さんは、今まで出会った担当者とは違った空気を
まとっている人だった。ある日、葉子から直接彼女が抱える不思議な謎の話を聞いた春菜は、
その話を海王さんに語って聞かせる。すると、海王さんはたちまちその謎の真相を語り始め
た――(「第一話 今な亡き星の光も」)。七海学園で起きる七不思議に纏わる謎を描いた
連作短編集。第18回鮎川哲也賞受賞作。


本屋で装丁と内容紹介を見た瞬間に「絶対これは自分好みだ」と読むのを決めていた今回の
鮎哲賞。その直感ははずれていませんでした。創元らしい連作短編集で、とても良かった。
作品構成は若竹さんや倉知さん、作風は加納朋子さんと北村さんをミックスさせたような感じ。
いずれも連作短編の名手ですが、先人方と比べてもさほど遜色ないのではと思える良作でした。
児童擁護施設で語り継がれる七不思議に纏わる謎を取り上げていますが、割とどの話も似通った
謎なので、後半になるにつれてマンネリっぽく感じる部分があったのですが、それが全て
ラスト一話への伏線になっていることに脱帽。ラスト一話を読んで、張り巡らされた伏線の
緻密さに唸らされました。終盤で主人公がぼやくある一言、それがそのまんま自分のぼやきに
なりました・・・(読んだ方にはどの部分がわかって頂ける筈)。完全にアホな人ですよ・・・。
まぁ、正直その辺りの描写はやりすぎなんじゃないかな、とも思ったのですが、賞の応募作で
ここまで書いちゃうということは、受賞すること(=本になること)を想定していたのでは
なんて、勘繰ってしまうのですけれど。よっぽど自信があったのかなぁ。回文がいっぱい
出て来て、ついつい鯨さんの『喜劇ひく悲喜劇』の『回文こんぶイカを思い出して
しまったのですが、本書で出て来る回文はあれよりも高度です(笑)。とっさにあんな長い
文章の回文作れるか?と思ったけれど、きっと私の数倍頭の回転が速いんだろうな。

七海学園の生徒たちに関しては第一話の葉子以外はいまいち没個性な子が多く、印象に残らな
かったのですが、主人公の春菜、児相の海王さん、春菜の親友・佳音ちゃんといった主要キャラは
なかなかキャラが立っていて良かったです。佳音ちゃんに関しては『やられたー』の一言でした
しね。

わけありの子供たちだけが通う児童擁護施設が舞台なので、中には重いテーマも挟まれています。
でも、酷い境遇にも強い心で立ち向かう彼女たちは逞しく、さほど悲惨な気持ちにならずに
さらりと読めました。彼女たちを擁護する周りの人間たちに恵まれたというのもあるかもしれ
ません。こういう境遇の子供たちの話を読むと、両親が健在で、普通に育てられた自分がどんなに
幸せなのかと痛感します。世の中には自分の子供を愛せず、虐待してしまう親もいれば、自分の
身勝手で子供を捨ててしまう親もいるのですから。いろいろと考えさせられてしまいました。

一話一話の伏線がちょっとづつラストの大きな伏線へと繋がって行く、こういう構成の連作
短編はもっとも私が好きな連作形式。とにかく、細かく伏線が張られているので、一作づつ気を
抜かずに読むことをお勧めします(私は全く気付かずほとんど全て読み流してました^^;;)。
文章も端正で非常に読みやすい。新たな『日常の謎系』作家の登場という感じ。今後の活躍が
非常に楽しみです。