ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

湊かなえ/「少女」/早川書房刊

湊かなえさんの「少女」。

高校二年の敦子と由紀は親友同士。しかし、最近は少し心がすれ違い気味だった。そんな時共通の
友人、紫織から親友の自殺を目撃した経験を聞かされた二人は、それぞれに「人が死ぬ瞬間が
見たい」と思うようになる。二人はお互いに内緒で、夏休みの間「人の死」が見れそうな場所で
過ごすことにするのだが――。


前作『告白』で出版界の話題をかっさらった湊さん注目の二作目です。この作品でこの作家の
真価が問われるだろうなぁと思っていましたが、安心しました、この人、ホンモノです。
二作目にしてここまで完成度の高い作品を書いてくるとは。昨年末に出た早川のランキング本で
この本のあらすじを読んだ時から期待は出来そうだと思っていたのですが、期待以上の出来でした。
衝撃度としては前作ほどではないけれど、構成や技巧力に関してはこちらの方が上なのではと
思えるくらい、終盤の伏線回収には感心させられました。こことここが繋がって、こうなって
あーなって、と少々混乱気味で読了したのでもう一度最初に戻ってみると、プロローグ的に挿入
されている少女の独白がすとんと腑に落ちました。出てくる登場人物がほとんど誰かと繋がって
いるという、度重なる偶然には弱冠ご都合主義的なものも感じますが、その辺りは小説としての
面白さを演出するためには致し方のないところでしょう。

ただ、序盤は二人の少女の人物造詣や思考回路が似通っているので、交互に出て来るそれぞれの
視点がどちらのものなのかがわかりにくく、ちょっと読みづらかった。その辺りは改善点かな、と
思いますが、そこに慣れれば本来のリーダビリティは健在で、のめり込んで一気読みでした。
今回も登場人物はひと癖もふた癖もある人物ばかり。十代の少女たちが持つ毒や底意地の悪さが
ふんだんに盛り込まれています。彼女たちの思考回路に関しては時には宇宙人の如くに理解
不能だったりしますが、これが現代女子高生の実態なのかもしれません。最近の女子高生事情
はよくわかりませんが・・・。これが偏見であれば良いのですが、ネット中傷で自殺という
ニュースなんかはよく耳にしますし、今日ニュースで見た有名人ブログの炎上による逮捕者の
中には18歳という年齢の人物が混ざっていたことからも、リアリティを感じずにいられません
でした。いじめの標的になった友人を遠ざけ、間接的に自殺に追いやる女子高生の冷ややかな
心理描写もリアル。親友が自殺する瞬間を目撃した友人を羨み、「人が死ぬ瞬間を見たい」と
願う心理は到底理解しがたいものでしたが・・・。

終盤は主人公二人の友情物語に弱冠の青春風味を感じさせるものの、この作者がそんな生ぬるい
青春物語で終わらせる筈がなく、一筋縄ではいかないラストの黒さが用意されています。それが
あるために、直前の友情物語なんてすべてがふっとんでしまいました。この作者に爽やかさ
なんかはなから求めていないので、個人的には「キタキターー!」と快哉を叫びたくなりましたが。
おそらく、大抵の人が読み終えてまた冒頭を読み返すのではないかと思います。というより、
読み返して始めてその部分の意味がわかる構成になっているので、必ずもう一度読んで欲しいと
思います。実はまたしても一度読んだ限りではラストの少女の独白にピンと来ない部分が
あったのですが(恥)、改めて中盤のある箇所(※一番下にページ数を書き記しておきます
を読み直してすべてがすっきりしました。実に細かい部分に伏線が張られているので、要注意です。

作品技巧に凝るあまりに、大きな爆弾を落とされたかのような前作みたいな衝撃度は影を潜めて
しまった感じもするのですが、個人的にはこういう奇麗な伏線回収された作品は非常に好み。
内容的には前作同様嫌悪感の強い作品ですが、作者の実力を十二分に発揮した怪作と云える
でしょう。青春小説や純愛小説に真っ向から立ち向かう悪魔的テイストのノワール青春ミステリ。
作者にはこれからもどんどん底意地の悪さを発揮させて、ノワール街道をまっしぐらに突き進んで
欲しいと思います(笑)。
『告白』が面白かった方には是非ともおススメしたい作品です。








以下、※部分のネタバレあります。未読の方は読まれないよう(そこだけ読んでも
意味不明だとは思いますが^^;)。









206ページ ある人物の本名。
















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