ミステリ読書録

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歌野晶午/「安達ヶ原の鬼密室」/講談社文庫刊

歌野晶午さんの「安達ヶ原の鬼密室」

太平洋戦争中、学童疎開したH県水口村を抜け出し、あてもなく歩き続けた果てに押尾村にやって
来た梶原兵吾は、異国の風情漂うお屋敷の玄関先に倒れたところを、屋敷に住む老婆に助けられる。
その夜、兵吾は便所に行った帰り、頭に二本の角が生えた鬼の姿を目撃してしまう。翌日、その話
を老婆にするが、信じてもらえない。そんな時、崖崩れで立ち往生した陸軍の兵士数人が一晩の宿を
求めて屋敷を訪れる。老婆は渋々承知し兵士たちを泊めることにするが、翌日から兵士たちの死体が
次々と発見され、遂には老婆や鬼の死体まで――唯一の生き残りとなった兵吾は記憶を失い、事件は
迷宮入りに。50年の歳月を経て、「直感」探偵、八神一彦が事件の真相解明に乗り出すことに――
(「安達ヶ原の鬼密室」)。


どうも再読らしい、と気付いたのはついさっき。表題作のトリックを読んで「これ絶対どっかで
読んだことあるな~」と思っていたのだけど、多分まんまこの作品。葉桜以前の歌野作品は未読が
たくさんあるから読んでないと思い込んでいたけど、このトリックは絶対に読んだ覚えがある。
メイントリック以外の細かいことは全く覚えていなかったしそれなりに楽しめたから、まぁ
いっか(ザ・適当人間^^;)。

タイトルからこてこての横溝系密室殺人が繰り広げられるのかと思いきや、いきなり出て来る
のはひらがなばかりで書かれた小学生が主人公の「こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつ
だいさくせん」で面くらわされました。続いて日本の高校をドロップアウトしてアメリカ留学
した少女が主人公の「The Ripper with Edouard」で更に目が点に。しかもどちらもなんだか
尻切れトンボみたいな終わり方で、一体何なんだーと不審に思っているところに、唐突に真打登場
とばかりに表題作が始まります。そして、表題作の後に他二つの完結編が収録されているという構成。
最後まで読むと作者が意図した意味がわかったのですが、正直こういう構成にする必要があったの
かなぁという気はしました。「こうへい~」も「The Ripper~」も小説としての出来がそれ程では
ないし、正直表題作との作風の違いに戸惑うだけで、蛇足に感じるだけだったので・・・。表題作
だけの方がすっきりしてて良かったんじゃないかなぁ・・・。表題作読んでしまったら、他の二つの
オチもだいたい読めちゃったし。
と、不満をだらだら述べましたが、表題作はなかなか大技トリックで、伏線も奇麗に張られていて
楽しめました。残念ながら、(多分)既読なので驚きとか新鮮味は全くなかったのですが・・・^^;
直感を頼りに推理する「直感」探偵なんて、某作家の「本質直感」で推理するあのキャラを思い
浮かべてしまったのだけど、こちらの八神探偵は全く萌え要素もなく好感の持てない性格でした。
嫌味でクールな探偵は古今東西たくさんいるし、その嫌味な感じが好きな場合が多いのに、八神
に関してはただ嫌悪しか感じなかったです。事務所の調査員を全部女性で固めて、その女性たちに
色仕掛けで情報を得させようとすること自体セクハラっぽくてなんか嫌だ。この人って、他の作品
にも出て来るんでしょうか。シリーズもの??
メイントリックに関しては多少腑に落ちない点は残ります。中庭に入り込んだ○○がなくなった
後でも、その痕跡は絶対残ってしまうと思うのですが。まぁ、兵吾少年は恐怖で細かいことに
気付ける状態ではなかったということなのかもしれませんけど。この屋敷を作った理由自体は
なるほど、と納得できるものでした。

一つわからなかったのは、一番最後に収録されている「こうへいくん~」の後編のラスト。
おにいさんが使うといった「まほう」の方法って何なんでしょうか。気になります。

構成的には不満が残りましたが、本格の原点に立ち戻ったような大技トリックは充分楽しめ
ました。歌野作品はまだまだ未読が残っているので、ちょっとづつ消化していかなければ。