ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

若竹七海/「プラスマイナスゼロ」/ジャイブ刊

若竹七海さんの「プラスマイナスゼロ」。

成績優秀品行方正だが超がつくほど不運に愛されるお嬢様・テンコ、成績最低品行下劣、極悪
腕力パンク娘ユーリ、そして成績も容姿も運動能力もすべてが平均の「歩く全国平均値」ミサキ。
周りからはなぜ一緒にいるのか不思議がられる三人だが、なぜか気が合いいつも一緒にいる。
そんな三人の前には何故か次々とトラブルが舞い込む。海辺の街・葉崎市を舞台に、凸凹女子高生
トリオが繰り広げる青春学園ミステリー。


うん。面白かった!葉崎市にある三つの高校の中ではちょうど真ん中のレベルにある葉崎山高校
に入学した女子高生三人組による青春ミステリー。文章量もページ数も少ないし内容も軽めなので
あっという間に読めちゃいましたが、軽さの中にも若竹さんらしい毒がちょこちょこ盛り込まれて
いて程よいスパイスになってます。何より三人のキャラ造詣が絶妙です。超絶不運のテンコ嬢や
破天荒なパンク娘ユーリの言動もいちいち笑えましたが、その二人に冷静なツッコミを入れる
ミサキもなかなかに存在感のあるキャラでした。「歩く全国平均値」なんてのはある意味それだけで
強烈な個性なんじゃないかと思うのだけれど。三人併せて「プラスマイナスゼロ」とはよく言った
もので、三人併せて初めて均衡が取れて一つになるという感じ。三人のバランスがとても良いです。
それにしても、テンコの不運の数々には笑わせてもらいました。容姿端麗成績優秀のお嬢様の外見
からは想像もできない不運ばかりに見舞われる様ははっきり云ってコントです。でも、彼女の
すごいところはその怒涛のごとく押し寄せる不運を不運だとも思わないプラス思考なところです。
根っからの天然少女ってこういう人のこと言うんだろうなぁ。ほんとに、憎めないというか、
ほっとけないというか。天然といえばユーリの天然っぷりもすごかったですが。シドモア富士山
に入れあげる話は笑った。卒業生を送る会でなんでソレ!?って私も思わずツッコミ入れちゃった
よ・・・。そのままやったら全校生徒どん引きだよ・・・^^;;ユーリの惚れポイントは理解不能
です・・・。でも、これまた彼女も憎めないというか、愛すべきキャラなんだな。
そして、ラストの三人のなれそめ話でのミサキがまた素敵だった。最後に彼女が生徒会の面々に
向けて言い放った言葉には胸がすかっとしました。それまで生徒会の人たちの言い草にはムカムカ
イライラしてたので。ミサキのテンコやユーリと出会う前の性格にはちょっと驚きましたが、二人
と出会ったことでもともと持ってた性格が表に出て来たってことなんでしょうね。波風立てないよう
に自分を殺して周りと付き合っているミサキよりも、言いたいことをばんばん言う毒のあるミサキの
方がずっと魅力的です。三人は出会うべくして出会ったのでしょうね。ラストはなかなかに爽快な
気分で読み終えられ満足です。

印象に残ったのは『悪い予感はよくあたる』かな。ベタなんだけど、まんまとやられました。
ちょっと変だなって引っかかった部分が案の定きれいに伏線になってて、ラスト読んで腑に
落ちました。
全体的にミステリとしてはゆるめではありますが、随所でしっかり小技が効いていて読ませて
くれる所はさすがだな~と思いますね。それぞれのオチも三人の能天気でとぼけたキャラに反して、
少しほろ苦かったり黒かったりして、若竹さんらしさが出ていて良かった。先に述べましたが、
ラスト一篇は三人の出会いのエピソードが痛快で、最後は爽やかに読み終えられたところも
良かったです。

一冊通して、このプラスマイナスゼロの凸凹女子高生トリオが大好きになりました。
なんだかんだいって、三人とも曲がったことが嫌いでまっすぐっていう点では共通してるんじゃ
ないかな。見た目や育った環境は違っても、実は似たもの三人組なのかも(苦笑)。
これは是非ともシリーズ化して欲しいなぁ(って、すでに葉崎市シリーズなんだけど^^;)。
若竹ファンなら絶対楽しめる一作ではないかな。装丁も可愛らしい。おススメです^^