ミステリ読書録

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誉田哲也/「武士道シックスティーン」/文藝春秋刊

誉田哲也さんの「武士道シックスティーン」。

剣道一家に生まれ、全中準優勝の腕前を持つ中三の磯山香織は、消化試合だと思って参加した
市民大会の4回戦で、東松学園中等部の甲本という無名の選手に負けてしまう。複数の高校から
剣道推薦の話が来ていた香織は、迷いながらも甲本のいる東松学園高等部に進学すると決めた。
そして春、入学式の日に香織は突然一人の少女から話しかけられる。西荻と名乗ったその少女こそ、
親の離婚で苗字が変わった宿敵・甲本その人だったのだ。西荻は日本舞踊から転向して剣道を始めた
転向組で、剣道歴も浅く、勝敗に拘らない能天気な性格だった。何もかもが正反対の二人。反発
し合いながらも、少しづつお互いに影響を与え合って行く。高校生少女剣士たちの武士道を描いた
痛快青春小説。


誉田さんは初読み。ゆきあやさんお薦めの『ストロベリーナイト』が何故か開架で見かけなく
なってしまった代わりに、以前から気になっていたこちらを発見。前に一度開架で見かけたことが
あったのですが、他に借りたい本があってスルーして以来、人気で借りられなくなってしまって
いたのでした(後悔先に立たずを実感)。やっと再び開架に並んでくれました。

うーん、痛快。剣道というと汗臭い男のスポーツ(というか武道?)というイメージがありますが、
本書の主人公はぴちぴちの高校生女子。でも、ヒロインの一人である香織はぴちぴちとは無縁の、
剣道一直線な女の子。オトコマエというのともちょっと違う、今時こんな子いるのか?って感じの
時代錯誤な性格が笑えます。だって、とにかく頭の中は剣道のことしかない。愛読書が宮本武蔵
身につけた兵法が詳細に描かれた『五輪書』。友達は一人もいないし、休み時間は片手に五輪書
片手にダンベル。言葉遣いも武士そのまんま。十代の青春、これでいいのか?ってついツッコミ
たくなるような高校生活を送っています。正直、前半の早苗に対する自己中心的な態度には
弱冠ムカつきながら読んだ部分もあるのですが、とにかく剣道に対する真っ直ぐさだけは本物で、
むちゃくちゃだけどどこか憎めないキャラクターでした。早苗は逆に、日舞を止めてなんとなく
剣道を始めただけに、勝敗なんか気にしない、楽しければそれでいいというおよそ武士道からは
程遠い性格。香織に幾度となく酷い言動を取られているのに、何故か彼女を憎めずに、彼女に
性懲りもなくちょっかいをかけるお人好し加減にはこちらがイライラしました。普通怒るだろう・・・。
闘争心がないにも程があるって。でも、怒りが長続きしない能天気な所が彼女の良い所なんで
しょうね。全く正反対の二人のキャラが非常に良かったです。お互いに影響を与えあって、
剣道に対する姿勢が変わって行くところが無理なく自然に描かれていて、これぞ青春!って
感じでした。

剣道に関しては漠然とした知識しかなくて、全然身近なスポーツでもないのだけど、そんな私
でも全くとっつきにくい感じがなく、テンポ良く楽しく読めました。香織が戦うこと自体に対して
意味が見出せなくなる後半は早苗同様私も心配になってしまいました。あれだけ剣道一直線
だった香織が剣道をやめようとするまで落ち込んでしまうとは。でも、道を究めようとする
過程には挫折がつきものであり、そこを乗り越えた人間はまた一回り成長し、大きく強くなれる。
早苗もまた、香織の挫折から大きな何かを学んで成長できた。この二人は本当にいいコンビです。
ラストの早苗の環境の変化には驚きましたが、『剣道』で繋がっている二人にはどんな障害も
関係ないのでしょう。明日へ繋がるラストも爽快で、読後感も良かったです。人生のまたとない
ライバルであり、唯一無二の親友である二人がこの先どんな対戦をするのか、続編の『~セブン
ティーン』を読むのが非常に楽しみです。

紅白二本のスピンのついた装丁も可愛い。なんだかお目出度い感じもしますね(笑)。
とにかく、痛快で爽快。万人にお薦めしたい傑作青春小説でした。これはいずれ映像化
しそうだなぁ。