ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有栖川有栖/「赤い月、廃駅の上に」/メディアファクトリー刊

有栖川有栖さんの「赤い月、廃駅の上に」。

五月の半ば、不登校を続ける少年は愛用のクロスバイクと供に目的地も定めず旅に出た。四日目、
自転車を漕ぎ続けると、木造の廃駅に着いた。少年はそこで一人の男と出会う。二人は駅で一夜
を明かすことにするが、夜中、トイレに起きた少年の前に恐るべき怪異が・・・!空には赤い月が
輝いている。赤い月は鬼月――(「赤い月、廃駅の上に」)。鉄道をテーマにした10の怪異譚を
収録。


有栖川さん新刊は初の怪奇をテーマにした怪談集。ほとんどが『幽』に収録された短編です。
全ての作品が鉄道ファンの有栖川さんらしく『鉄道』というテーマで書かれているだけに、
去年出版された『壁抜け男の謎』のようなジャンルミックスの散漫な印象がなく、纏まりの
ある短編集になっているところは良かったです。有栖川さんらしい叙情的な文章もノスタルジック
な雰囲気をかもし出していて良い。ただ、一篇一篇の出来というと、それほど突出したものは
なかったように思いました。表題作なんかは良かったですが。どの話もあっさりと終わってしまう
ものが多く、もう一ひねり欲しい、という感じ。怪異譚としてはちょっと怖さも足りないかな。
ぞくり、と背筋が寒くなったものは表題作くらいだったかなぁ^^;百物語を扱う作品さえ全く
怖さがなく拍子抜けしてしまうくらいだったので^^;怪奇小説というよりは幻想小説として
読んだ方がいいのかもしれない。はっきりオチをつけずに結末をぼやかして余韻に浸らせる
タイプの作品が多かったです。こういうジャンルの作品はそれでいいのでしょう。

それにしても、紙質がわら半紙みたいで本がやたらに軽い。これも狙った装丁なんだろうけど、
ちょっと安っぽく感じられるような^^;軽くて読みやすくて良かったんだけど・・・^^;
表紙はとってもカッコイイ。不吉な『赤い月』に照らされた廃棄車両・・・タイトルと装丁が
ぴったりはまっていて、すごく好き。

私は鉄道マニアじゃないけど、電車とか駅って地方色が強くなればなるほど雰囲気があって
いいですね。どこかノスタルジーに浸れて、自分も旅している気分になれて。でも、怪異に
遭うのはごめん被りたいですけどね(苦笑)。



以下、印象に残ったもののみ一言コメントを。


『夢の国行き列車』
ついこの間も『万博』が出て来る作品を読んだけれど、昭和の懐かしい雰囲気が良かったです。
オチは想像ついたけど、戸倉氏がどうなったのか気になります。彼のその後を思うと、やるせない
気持ちになりました。

『密林の奥へ』
どこかにいるかもしれない『空の鯨』を追って辺境の地を彷徨う。これが鉄道の旅の醍醐味
なのかも。でも、一度行ったら戻って来れないのは困る^^;この旅に終わりは来るのでしょうか。

『テツの百物語』
5人の語る怪談が全く怖くなかった^^;オチもちょっと拍子抜けだったかなぁ。

『黒い車掌』
これは結構良かった。死ぬ直前に走馬灯のように自分の関係者たちが会いに来る。黒い車掌が
なんとも不吉感があったけど、つい銀河鉄道999の車掌さんを思い出してしまった。ラスト
一行に息を飲んだ。

『海原にて』
あれ、こっから鉄道じゃなくて船ミステリ?と思ったら、ちゃんと鉄道でした。ちょっと他の
とは毛色の違う作品。でも、なんで海の上から新幹線?と思ってしまった^^;

『最果ての鉄橋』
これは逆転のオチですね。皮肉とも云えるのかな。度胸があったものが救われる?

『赤い月、廃駅の上に』
これは表題作になるだけあって、一番良かった。駅舎の外で起こっていた出来事とは何なのか。
そしてそれを起こしていたモノは――はっきり描かれないことで、かえって怖さやおぞましさ
を感じる作品でした。綾辻さんの『深泥丘綺談』に出て来たアレを思い出しました(電車のやつね)。




一作一作はそんなに読み応えがないのだけど、『鉄道』ものをこれだけ纏めて読むとかなり
お腹いっぱいになった感じにはなりました。一貫したテーマがあるので、短編集としては
纏まりがあってなかなか良かったのではないでしょうか。有栖川さんの叙情的で感傷的な文章は
こういうジャンルに合うとは思うのだけど、でも、やっぱり私は本格を書いて欲しいんだよなぁ。

鉄道ファンには是非読んで欲しい一冊ですね。