ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

小路幸也/「わたしとトムおじさん」/朝日新聞出版刊

小路幸也さんの「わたしとトムおじさん」。

両親の別居がきっかけでニューヨークから単身日本にやって来た帆奈・ニールセン。古い家や
洋館が集まる観光施設< 明治たてもの村 >で祖父母と引きこもりのトムおじさんと一緒に暮らして
いる。引きこもりのトムおじさんと過ごす日々の中で帆奈は大事なものを学んで行く――ハート
ウォーミングストーリー。


相変わらずコンスタントに新刊を出し続ける小路さん。ファンとしては次々と新刊が読めるのは
嬉しいのだけれど、ここ最近の作品はどれも似たりよったりで、正直目新しさが感じられるとは
言い難い。本書も小路さんらしい心温まる作品ではあるのだけど、読み終えた後の充実感が得られる
作品とは云えなかった。系統としては前回読んだ『空へ向かう花』に近い。子供視点で語られるし、
終盤でみんなで一つのものを造り上げる『共同作業』をしながら人との絆を作って行く過程も
似てる。引きこもりのトムおじさんだけはちょっと今までとは違うキャラだったけど、『いい人』
ばかりが出て来て、すべてが優しい結末を迎えるので、どうもご都合主義的な印象を抱いてしまう。
小路さんの優しい目線は大好きなのだけど、どれもこれもが似た内容だとさすがに飽きる。もう
一ひねり欲しいと思ってしまう。好きなだけに、あと一歩踏み込んで書いて欲しいと思って
しまうのです。もっとじっくり腰を据えて一作に取り組んで欲しいなぁ。タイトルのつけ方
から見てジュヴナイルを意識されているのだろうけど、ジュヴナイルとしてもちょっと読み応えが
なさすぎる気がするなぁ。優しくて温かくて素敵な話なんですよ。なんだけど・・・どうも
最近黒系の作品を読む機会が多かったから、あんまりにも毒がなくて物足りなく感じてしまった
のかも・・・。それに、これの前に読んでた奥田作品の密度があまりにも濃かったから余計に
読み応えのなさを感じてしまったような気もする。どうも小路作品はツボにはまる作品と
そうでない作品に分かれてしまうなぁ。これも『空へ向かう花』を読んでいなければもう少し
評価は高かったかもしれません。

キャラはとてもいいんですよ。引きこもりだけど天才的な職人技術を持つトムおじさん、子供
とは思えないしっかりした自己を持っているハンナ、二人を温かく見守るハンナのおじいちゃん
おばあちゃん。ハンナの友達のミキちゃん、児童擁護施設の少年・恭介君。脇役キャラも好人物
ばかり。ハンナのおじいちゃんは『東京バンドワゴン』の我南人そのまんまって感じはしましたが^^;

紗絵さんと内浦さんの話もちょっと拍子抜け。内浦さんが今になってトムおじさんに会いに来た
のも今更って感じがしたし。それを許しちゃうところがトムおじさんのいいところなのかも
しれないけど、読んでるこっちは歯がゆくてイライラしました。結局人間性善説なんですよね、
小路さんの世界って。確かにそれが理想だしそうあって欲しいのだけど、どこかで「そんな
上手くいかないよ」って囁いている黒べる子がいるんですよ・・・ああ、嫌だ。坂木さんには
あの優しくて温かい世界を貫いて欲しいと思うのに、何故か小路さんにはもっと黒いところを
出して欲しいと思う自分がいる。変だなぁ。なんでだろ。完全に矛盾してる。謎。個人的には
『HEARTBEAT』みたいな作品が一番読みたいんだけど。ああいう系統の作品、また書いてくれない
かしら。って思ってたら続編がアレだったんだよな・・・むむむ。

なんとなく、毎回歯切れの悪い記事になってしまう小路作品なのでした・・・スミマセン^^;;