ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

桂望実/「WE LOVE ジジイ」/文藝春秋刊

桂望実さんの「WE LOVE ジジイ」。

売れっ子のコピーライタとして成功していた岸川は、広告代理店に勤めていた高校の後輩を
仕事で裏切り、自殺に追いやってしまった。そのことがきっかけで何もかもが嫌になり、仕事を
辞めて都会生活を捨て、一人静かな田舎生活を送ろうと旧川西村にやって来た。しかし、町村
合併で町のお荷物になっている旧川西村は、町おこしで地域活性化を図ろうとして試行錯誤の
最中だった。人気コピーライターだった岸川の企画力をあてにした地域活性化職員の池田は、
岸川に町おこしのアイデアを考えて欲しいと持ちかける。岸川がその場で適当に思いついた
輪投げ大会のアイデアを話すと、思い込みの激しい池田は即座に乗り気になり、輪投げのゲーム
大会を開催するべく段取りをし始めた。成り行き上大会開催に尽力する羽目になった岸川は、
嫌々ながらも池田に協力することになる――無気力で孤独だった男が再び生きる楽しさと
人との触れ合いの温かさを学んで行く、人生の再生物語。


相変わらずミステリから遠ざかっております^^;桂さんの新刊。桂さんらしい、主人公の
精神的成長を描いた良作です。自暴自棄になった主人公が、過疎化し高齢化した村の町おこし
(この場合村おこしなのか?^^;)を手伝いながら、人の優しさや温かさに触れていく
ハートウォーミングな作品。相変わらず脇役キャラが非常に良い。この作品の核となるのは
二組の友情物語。主人公の岸川と地域化職員の池田、そしてバネ工場の派遣スタッフ・新山
からなる三人の友情と、しげジイと亀ジイ、70年来の親友の二人の友情。前者は輪投げ大会
を成功させるという名実の下、少しづつ築かれて行く新しい友情であり、後者は70年を
超える長い年月が培ってきた確固たるゆるぎのない友情。どちらの友情にも胸がほかほかと
温まりました。他人に心配してもらえるのって、やっぱり嬉しいし励みになりますね。孤独で
クールだった岸川が、川西村の村人たちと触れ合って行くうちに、少しづつ変わって行く過程が
テンポよく温かい目線で描かれていて良かったです。『県庁の星』町おこしバージョンって感じ。
幾度となく町おこしの企画に失敗しながらも、めげずに村を盛り立てることに必死になる池田
のキャラもとても好きでした。彼の言動を読んでいる限り、どうしても若者っぽいイメージが
してしまったのだけど、50を超えたオッサンなんですよね^^;岸川との年齢差を全く
感じなかったのはやっぱり、池田のキャラクターゆえでしょう。年齢を超えた友情っていいなぁ
って、しみじみ感じさせてくれました。岸川の身体のことを考えて胃の負担にならない料理を
作ったり、病院に行けとおせっかいをやいたりと、かいがいしく世話をする姿は完全に世話女房
って感じでちょっと笑えました(笑)。

あがり性の亀ジイを心配しながらも、彼の輪投げの才能を最後まで信じるしげジイの心意気にも
胸がじーん。どんなに齢をとっても、こうやって自分を信じてくれる人間がいるって素晴らしい
ことですね。ゆるぎない友情って実在するんだなぁって羨ましくなりました。

そして、やっぱり忘れてならないのが五十嵐商店のきよバアですね。岸川の要望に従って、五十嵐
商店の商品が変わって行く所が好きでした。しげジイ、亀ジイの二人の友情を見守っているところ
も。独り者のしげジイに密かに思いを寄せているところも可愛らしかったですね。
あとは、外国人労働者のアウベルトと鹿を退治できる賢いわんこのアイサツもとっても気に入った
キャラでした^^

後半になってくると○○ジイ、○○バアがやたらに増えて、誰が誰やらわけわからなくなって
しまったところはあるのですが、愛すべき老人たちがたくさん出て来て、子供と老人が活躍する
作品に弱い人間としては結構ツボでした。

正直云えば輪投げの大会で町おこしってのはいくらなんでも無理があると思ったし、輪投げゲーム
のルールも複雑で説明がわかりづらかったのは難点かな、と思いましたが、その辺りに目をつぶれば
とっても読後感が良く、温かい気持ちになれる作品でした。いい話読んだなぁ~って嬉しくなりました。
桂ファンなら是非読んで欲しい快作。面白かった!