ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

山白朝子/「死者のための音楽」/メディアファクトリー刊

イメージ 1

山白朝子さんの「死者のための音楽」。

飢饉と病で村の大勢が亡くなった年のある静かな夜、村の和尚は一人の少女と出会う。彼女は
下腹部に小刀が突き刺さり重傷を負っていた。少女は、誰かに襲われ、父親が殺されたという。
和尚は少女にお宮という名前を与え、自分の寺で介抱し住まわせるが、三ヵ月後、彼女が身ごもって
いることがわかる。しかし、お宮は襲われた時に何もされなかったというのだが――(『長い旅の
はじまり』)。怪談雑誌『幽』に掲載された短編6作と書き下ろし一篇を収録した著者初の単行本。


発売時に書店で見かけて、その装丁の美しさに是非読んでみたいと思っていた作品。著者の知識
とかは全くなかったのですが、帯だかPOPだかに乙一絶賛』みたいなことが書いてあったん
ですよね、確か。でも、読み終えて毎度の如くに書評巡りをしていたら、どうも乙一さんの変名では、
という噂があるらしい。あ、あれ?^^;確かに読んでみると乙一さんが書いたと言われても納得
できるような作品が多かったですが。それにしても、乙一さんって変名の噂の多い人だな。まぁ、
多分ガセネタなんじゃないかなーという気がしますが(一応本の最後にちょこっと経歴が載って
いるし。ただ、趣味が『たき火』っていうのが、いかにも乙一さんが言いそうな感じはします
けれど。どんな趣味なんだよ、それ^^;)。

と、まぁ、前置きはそれくらいにして、本書。素晴らしい作品集でした。静かで優しい語り口の
合間に潜むダークテイストが実にいい。暗黒童話って感じでしょうか(やっぱり乙一さん?^^;)。
華美ではないけれど、端正で叙情的な文章がまた作品の雰囲気に合っていて、秀逸。すっかり
作者の世界観に魅せられてしまった。怪談というほどの怖さはなく、これも『幽』らしい幻想怪奇
な物語集。黒く残酷な要素を混ぜながらも、結末は切なく、誰かへの愛を感じさせるものが多い。
どの作品も静かな余韻に浸りながら物語が閉じる。簡潔な文章だからこそ胸に響く哀切がある。
新人とは思えない巧さを感じました。確かに乙一ファンならはまる作家かもしれない。そして、
やっぱり特筆すべきは祖父江氏による装丁の美しさ。もう、うっとり。細部にまで非常に気を
配っていて、飾っておきたくなってしまう。細く長い三本のスピンも、文章や作品の繊細さと
ぴたりとはまっていて、素敵。それにしても、最近複数のスピンがついてる本を良く読むのは
なぜだろう(苦笑)。内容と装丁がぴたりとはまっていて、さすが祖父江さん。グッジョブ。
やっぱり装丁って大事だなぁ。この装丁でなかったら、絶対手に取ってないもん(作者名なんて
全く知らなかったし)。

どの作品も独特の世界観を持っていて素晴らしかったのだけど、特に気に入ったのは『黄金
工場』『鳥とファフロッキーズ現象について』。『黄金~』の黒さにはやられました。特に
牛一頭分くらいの大きさの生命を黄金に変えるくだり。息を飲みました。黄金が永遠では
ないという結末の苦さもいい。少年が体験するにはあまりにも残酷な結末。ミステリとしても
読ませる展開で、作者の巧さが一番出ている作品ではないかと思いました。
『鳥と~』は、何故か頭の中ではスマスマでキムタクがやっていたPちゃんが思い浮かんでいた
のだけど(あれはピンクなのに^^;;)、鳥の残忍さ健気さ、ラストで明かされる真実に
やられました。ファフロッキーズ現象なんて言葉、初めて知りました。空から異物が降ってくる・・・
あんまり体験したくないなぁ^^;これもミステリとしても読ませる展開で、完成度が高かった
です。
あとは鬼物語も好きだったかな。安吾の『桜の森の満開の下』を彷彿とさせるような、
桜と鬼の物語。鬼の残酷さには怖気が走りましたが。情景描写の美しさが際立っていました。
クライマックスの弟の行動には胸が締め付けられるような気持ちになりました。姉に守られてきた
弱い弟が見せた最後の強さ。ラストの姉の最愛の弟への優しい呼びかけが切なく、悲しい。

いやー、堪能しました。こういう作品大好きなんですよ。長編も読んでみたくなりました。
幻想的な作品がお好きな方には是非お薦めします。