ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有川浩/「三匹のおっさん」/文藝春秋刊

有川浩さんの「三匹のおっさん」。

還暦を向かえ、務めていた会社を退職して、嘱託として系列のゲームセンターに再就職した清田
清一。出勤は週3~4日で勤務時間も短い。時間が空くようになった清一は、幼い頃から『三匹
の悪ガキ』としてつるんできた幼馴染の工場経営主・有村則夫、居酒屋『酔いどれ鯨』の元亭主・
立花重雄と供に、町の私設自警団『三匹のおっさん』を結成することに。清一の孫・祐希と則夫
の一人娘・早苗も手伝って、町内の物騒な事件を痛快に解決!痛快アラ還エンターテイメント。


有川さんの新刊。これは広告で設定を見た時から面白そうだなぁと思って読むのを楽しみにして
いた作品。最近巷ではアラフォー(around 40)やアラサー(around 30)といった言葉が大流行して
ますが、本書のおっさん三匹はアラ還(around 60=還暦)世代です。還暦を過ぎたオッサン連中
が主人公なのに、三人とも全然枯れてなくって元気溌剌。子供時代に悪巧みを頻発していた悪ガキ
トリオがそのまんま大人になったって感じの三人のキャラが絶妙。でも、三人の関係はそのまんま
でも、三人それぞれきちんと年齢を重ねただけの重みを抱えた大人になっているところがいい。
悪いことといいこと、ちゃんと判別して、いけないことはいけないと人に教えられる真っ当な人たち。
彼らの言動は時には身につまされ、時には感心させられ、どれを取っても一つ一つが胸に響きました。
こういう大人が身近にいる人間はきっと真っ当な性格に育つんだろうなって思う。清一の孫の祐希
なんか、まさにその典型例じゃないでしょうか。清一が近くにいなかったら、あの両親の影響を
モロ受けして、もっと歪んだ人間になっていたんじゃないだろうか。反抗期のせいで一時清一
から離れてしまったけれど、小さい頃から清一に剣道を習って、おそらく精神も鍛えられたという
ベースがあったから、見た目はチャラくなっちゃっても、芯はしっかりしたああいう性格に育った
んじゃないかな。身近に人生のお手本のような人間がいるって、その人の人格形成の上でとっても
大事だと思う。

還暦世代って、老人っていうにはまだ早いけど、仕事をリタイアして余生を過ごす年代の
スタートでもあって、なかなか心情的には微妙な世代なんじゃないでしょうか。でも、本書の
三匹のおっさんたちの姿は、還暦過ぎてもまだまだ若いし、一花咲かせられるぞ!っていう
アラ還世代の人たちへのエールのようにも感じました。是非、お父さん世代の人たちにも
読んで欲しい作品です。もちろん、本来の有川さんのファンの人には祐希と早苗ちゃんの
恋愛パートで楽しめるようになってます。図書館シリーズ自衛隊シリーズみたいなこてこての
ベタ甘まで行かない、高校生の初々しい恋愛なので、読んでいても非常に爽やか。二人の出会い
はかなり重い出来事がきっかけではありますが・・・。祐希は一話の始めでは最悪の印象だった
のですが(自分の祖父を『ジジイ』呼ばわりだし)、ページを追うごとに彼の良さがにじみ出て
来て、最後はとっても好青年の印象に変わりました。清一との関係がまたいいんですよね~。
祐希の見立てで清一のファッションが少しづつあか抜けて行くところがとっても好きでした。
お互いに素直じゃないから、口では仲良くないなんて言い合ってますが、誰が見ても仲のいい
祖父と孫の関係です(笑)。一話目で、則夫に高校生の娘がいるという設定を読んだ瞬間に
「絶対これは祐希の恋愛相手になるな」と確信してたら、案の定の展開でした(笑)。

三匹の中ではやっぱりキヨさんが好きだなぁ。渋くて。悪者相手に剣を振るう姿がなんとも
言えずカッコイイ!言うことも真っ当で、言われた方はつい姿勢を正してしまいたくなる。
奥さんの芳江さんのキャラも豪傑で良かった。まぁ、この人が姑だったら嫁はさぞかし大変だろう
なぁとも思うので、祐希の母親の貴子には弱冠の同情も覚えるけれど(でも、この人自体は全く
好きになれないけど)^^;

ラストの話だけは結末がすっきり解決って感じじゃなく、ちょっとモヤモヤしました。そもそも、
市役所に一介の市民が催眠商法についての現状を伝えたって、役所がそんなマトモに対応してくれる
とは思えないのですが。ついこの間市役所に行って酷い対応されたから言うんじゃないですけどね
・・・きちんと事実を把握してないのに適当に受け答えされて、すごく迷惑したことがあったので。
つくづくお役人のお役所仕事のいい加減さに呆れ果てました・・・おっと、脱線^^:
それに、結局本来の目的であった靖代さん自身のことは何の解決もしていなかったのも消化不良
でした。三匹が動いたおかげで催眠商法の危険性は市民に訴えられたかもしれないですけど・・・。

まぁ、多少不満は残りましたが、トータルではとっても楽しめた作品でした。おじいさんの
一歩手前、アラ還だってまだまだ捨てたもんじゃない。読んで爽快、痛快なオジサン小説
でした。広い世代の人に読んで欲しいエンターテイメントな一冊です。お薦め!