ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「七つの黒い夢」/新潮文庫刊

「七つの黒い夢」。

美しい私の息子・遊馬は勘違いするくせがある。彼が勘違いをしたまま絵を描くと、とんでもない
ことになるのだ。私は息子に絵を描くことを禁じた。しかし、ある日息子は約束を破って再び絵を
描いた――(乙一「この子の絵は未完成」)。7人の作家によるダークファンタジー7編を収録。


「七つの死者の囁き」に続いてまたまたアンソロジーです。なかなか執筆陣は豪華なのですが、
正直全体のレベルとしてはいまひとつ、という感じでした。まぁ、久々に乙一作品が読めただけ
でも読んで良かったと思いましたが。ただ、タイトルに「黒い夢」と銘打った割りにあまり黒い
作品がなかったのは残念。「夢」に拘った作品もほとんどなかったし。タイトルに惹かれて読んだ人
には物足りないのではないかなぁ。もう少しホラーテイストの作品が入っていたら良かったかな
(黒好き)。


以下、各作品の短評。

乙一「この子の絵は未完成」
乙一さんらしい一篇。じんわりと心が温まりました。匂いが現実になる絵を描くことを母親が
「勘違いした」と表現するのが面白い。この子がどんな大人になるのか、成長後の彼を見てみたい。
ただ、こういうアンソロジーに収録されるならば黒乙一作品が読みたかったかも・・・。

恩田 陸 「赤い毬」
恩田さんの短編集「朝日のようにさわやかに」で既読。懐かしい郷愁を感じる作品。イメージは
セピアの情景の中に浮かび上がる鮮やかな毬の赤。無声映画の一コマを観ているような感じ。
恩田さんらしい一篇だと思います。

北村薫「百物語」
これは一番怖かったかも。すべての灯が消えた時主人公の前にいるのは・・・。想像力を掻き立て
られ、怖気が走りました。

誉田 哲也「天使のレシート」
うーん。なんだったんでしょう、これ。書きたいことが整理しきれてない感じ。使命を背負った
天使がそのまま天使って名前でコンビニでバイト!?主人公と天使のやりとりも後味が悪いし、
ラストも救いがない。

西澤 保彦「浅敷がたり」
設定は面白かったので、かなり期待が出来そうだと思ったのだけど、ラストは拍子抜け。もっと
緻密なミステリになるかと思ったのに、残念。

桜坂洋「10月はSPAMで満ちている」
初めて読む作家さん。なんでこのアンソロジーに入っているのかよくわからない。ただ、作品
としてはコミカルで結構面白かった。魚肉ソーセージに拘ってるところがなんか笑えた(笑)。
ラストのオチがいいですね。スパムは塩からいもんなぁ。○は食べちゃいかんよね。

岩井志麻子「哭く姉と嘲笑う弟」
これは一番世界観とか好きだったのだけど、なんだか話が散漫で、一言で『惜しい』って感じの
作品。いくつもお話を挙げるのではなく、一つに絞って姉と弟のオチになった方がすっきりして
いたのではないかという気がする。それぞれの話にもう少し共通点があればよかったのだけど。
オチにはちょっとがっかりしました。いきなり現実の醜い世界に引き戻されてしまって興ざめ。
作品の落とし所としては良いのだろうけど、個人的には美しい世界観のまま終わって欲しかった。



好きだったのは乙一さん、北村さん、桜坂さんかな。恩田さんは再読ですが、やっぱりこういう
雰囲気のある話は好きです。ただ、アンソロジーの一篇とすると読み応えはないし、記憶には
残らない作品でしょうね。全体的なまとまりがなく、何を狙っているのかわかりにくいアンソロジー
になってしまっている点は残念でした。図書館にあったら借りてみてくださいって感じかなぁ。
買って読んでとは言えないな^^;