ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

加藤実秋/「ヨコハマB-side」/光文社刊

加藤実秋さんの「ヨコハマB-side」。

横浜駅西口繁華街前の広場でティッシュ配りのバイトをするチハル。新しく入った新人バイトに
仕事を教えてくれと頼まれたが、外見もダサいし、どうしようもなく使えない。なのに、なぜか
このダサ男が生粋の横浜市民。埼玉生まれ埼玉育ちのチハルは、エキゾチックで洗練された横浜に
憧れて、片道二時間かけて通勤している。世の中は不公平だ。ムカつきながら仕事を続けるチハル
たちは、一人の男が広場にたむろしている中学生たちとトラブルを起こしている場面に出くわす。
話を聞いてみると、男は結婚相談所で出会った一人の女性を捜しているという。礼金につられて
チハルたちも男に協力して女性捜しを始めるのだが――(「女王様、どうよ?)横浜を舞台に
若者たちの活躍を描いたエンターテイメントな青春小説。


インディゴシリーズは渋谷ですが、こちらは横浜。しかも横浜西口繁華街のビブレ前広場という
かなり限定した場所で繰り広げられる人間模様を描いた連作集です。ミステリとしては相変わらず
のゆるさ加減ですが、個性的な若者たちが生き生きと動き回る姿はなかなかに痛快で面白かった
です。横浜はたまに行きますが、第一章のチハルが憧れるのも頷けるようなエキゾチックで洗練
された街というイメージ。出て来る若者たちは弱冠この洗練された雰囲気とは合わないタイプが
多かった気もしますが、それぞれに真っ直ぐで、事件を通して成長して行く姿は爽やかでした。

それぞれの話で主人公は変わりますが、少しづつ背後に街を騒がせている『パニッシャー(処刑人)』
と呼ばれる犯罪者の存在をちらつかせ、ラストの一話でその『パニッシャー』の正体がわかる、という
連作形式になっています。ビブレ前広場にいつもいる若者たちが主人公なので、各作品で登場人物
たちもちょっとづつリンクしているのが嬉しい。外見は髪の色が派手だったり今風のコギャル
だったりとちゃらちゃらしたキャラが多いのですが、理不尽なことに直面した時の一本筋の通った
考え方や熱さには好感が持てました。若さゆえにムカつく言動もありましたが^^;この手の作品
を読むと、いつも若さっていいなぁってつい思ってしまう。勢いでなんでもやれてしまえる時期。
そう思うのってやっぱり自分が年取ってる証拠なんだろうなぁ・・・はぁ。



以下、各短編の短評。

『女王様、どうよ?』
最初は主人公のチハルの上から目線な態度にムカついたのですが、ラストで紗江子につきつける
言葉にすかっとしました。実はこの作品読んでる限りではチハルと山田がその後も出て来る
連作短編だろうと思っていたので、二作目読んでちょっとがっかりしました。山田が少しづつ
チハルの影響でダサ男から脱出していくのかと思っていたのになぁ(苦笑)。浜っ子に漠然と
憧れるチハルの気持ちはちょっとわかりました。同じ東京でも市民は区民に憧れるものですから
ね・・・(市民代表)。

『OTL』
これはノートに書かれていた『OTL』から『OUT TO LUNCH』を導き出す過程にちょっと無理が
あるように感じました。もっと他の言葉だっていくらでもあるだろうし。何でも誰かがなんとか
してくれるだろうとか、自分でやろうとしない人っていますね。何でも自分で出来る、やってみる
人にとっては、そういう人物ってムカつくし歯がゆくなるものです。職場で似たような経験を
しているので、友美の気持ちはよくわかりました。でも、隼人がラストでちゃんと成長したことが
伺えて嬉しくなりました。

ブリンカー
これは一番好きだったかも。ユカリと真悠子の関係も良かったし、事件を通してユカリとアユムの
距離が近づいて行くところがツボでした。オネェ言葉を使いながらも、それとなくユカリをサポート
するアユムのキャラが気に入りました。カットモデルってやったことないんですが、ヘッドスパまで
やってもらえるなら私もやりたいなぁ。

『一名様、二時間六百円』
カラオケボックスで歌を歌わない・・・そんな勿体ないことする人がそんなにいるんですかねぇ。
一人カラオケって未だにやったことないんだけど、たまに無性にカラオケに行きたくて、でも
一緒に行く人がいない時にやってみたくなります。小心者だからやっぱりいけないんだけど^^;
一人になりたくてカラオケボックスに行くってのはよくわからないなぁ。自分の部屋でいいじゃん
って思っちゃったんだけど^^;戸川君、外見はともかく(^^;)、なかなか味のある性格で
良いキャラでした。

『走れ空気椅子』
頭の中では実際の女性二人組のお笑いコンビが浮かんでました。ハリセンボンとか、あと何故か
ヌーブラヤッホーの二人(コンビ名、なんだっけ?^^;)。テレビ局のやらせの手段には腹が
立ちましたが、女子高生たちのパワーに胸がすく思いがしました。

『ヨコハマフィスト』
パニッシャー』の正体がわかり、それぞれの登場人物も総出演の最終話。ただ、『パニッシャー
の正体にはここまで引っ張っただけに拍子抜け。まぁ、もともと冗談みたいな犯行だったから、
動機もそんなもんなのかなって思いましたが、それにしても・・・。この軽さがこの作品全体を
現しているのかもしれませんが。最後の犯行にはすかっとしましたけどね。



軽妙に読める若者向けミステリという感じでした。横浜版池袋ウエストゲートパーク
なぜかこの手の若者小説を読むと引き合いに出したくなってしまう石田作品(ドラマしか
観てないくせに^^;)。
横浜の雰囲気もたっぷり楽しめました。軽めの作品が読みたい時におススメの一作です。