ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

松本寛大/「玻璃の家」/講談社刊

松本寛大さんの「玻璃の家」。

アメリカ、マサチューセッツ州の小都市、コーバンに住む11歳の少年コーディは、ある理由から
没落し廃屋となった、かつてガラス製造業で財をなしたリリブリッジ家の屋敷に忍び込む。そこは
当時富豪だった主人が非業の死を遂げた場所でもあった。コーディは、屋敷を探検している途中で
死体を焼いている不審な人物を目撃する。警察に保護されたコーディは犯人についての証言を求め
られるが、コーディは不慮の交通事故以来、『人の顔が認識できない』という障害を抱えていた為、
捜査は難航した。スタッブズ大学心理学部の日本人留学生トーマは、州警察の依頼で、コーディの
「相貌失認」の調査を引き受けることになった。コーディが見た犯人の姿を割り出すことは可能
なのか――第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。


彰信さんに教えて頂いた福ミス受賞作。福ミスなんて知らなかったのですが、今回が第一回目
なのですね^^;選考委員の島田荘司氏が絶賛したというし、なかなか巷の評判も良さそうなので
手に取ってみました。なるほど、なるほど、島田さんがいかにも好きそうな作品でした。事件の
犯人はかなり早い段階であっさりとわかってしまうので(しかも結構あからさまな伏線があるし
^^;)、かなり拍子抜けだったのですが、その先にある謎解きや、その犯人をいかにして告発
するのか、という点が本書のキモになっているので、本格ミステリとしては充分読み応えがあり
ました。半倒叙ものといっても差し支えないかも。
ただ、私自身が海外ものというか、外国人の名前を覚えるのが苦手なせいで、人物関係を把握する
のがとっても大変で、謎解き部分を読んでもなかなか理解が出来なかった。しかも登場人物が
やたらに多い。2007年、1968年、1937年、1692年と、それぞれの登場人物が
複雑に絡み合っているので、もう、何がなんだか、って感じでした^^;すっきり整理したら
かなり良く出来た本格ミステリになっているのがわかると思うんですが、私の読解力ではそこ
までに及ばなかったというのが正直なところでして・・・情けない^^;

何故リリブリッジ家の鏡やガラスを始め『人の顔が映るもの』がすべて排除されていたかの
理由には目が点。そんなことが成立するのか?という点において、リアリティがあるかどうかは
疑問が残るところではありますが^^;□□を全く外に出さないで○○なきゃ無理だよねぇ・・・
(□□には漢字ニ字、○○には漢字とひらがな一字づつ)。

トーマによって仕掛けられた、中世の魔女裁判になぞらえたクライマックスの犯人識別法にも
びっくり。日本の伝統芸能で使われる道具がこんなところで役に立つとはねぇ。事件の謎解きと
この犯人識別方法に至るクライマックスの流れは圧巻。作者の本格への熱き思いが感じられる
作品でした。
でも、欲を言えばもっとすっきり読ませて欲しかったというのが正直なところ。文章自体も
まだまだ書きなれていない表現などがちらほら伺えるし、全体的にスローテンポな話の展開は
少々退屈な部分もありました。デビュー作としては充分水準を満たしていると思うので、今後
書きなれたら島田本格を受け継ぐ作家に育っていくかもしれない、という期待をもたせてくれる
作品でありました。







以下ネタバレあり。未読の方はご注意を。










わからなかったのは、クロフォードがあそこまで双子の弟ジェニングズを憎んだのは何故かという
理由。あそこまで手のこんだ復讐(?)を仕込む程、一体何をされたのか、その辺りの動機が
書かれていないので、いまいち彼の言動が理解できなかった。もともと仲が良くなかったってのは
あるだろうけど、あれだけの憎しみを向けるまでに至るには何かのきっかけがあったとでも考え
ないと納得できないのですが。例えばジェニングズとクロフォードの妻・マリオンが不倫したとか。
殺害の動機は妻の為という大義名分があるので理解できるのですが、彼の家族に資産を一銭も残さな
いように画策するというのは、やっぱり弟への激しい憎しみがないとやらないと思うんですよね。
あそこまで仲が悪いのに共同経営者になってたのも腑に落ちなかったんだけど。その辺りの人間
関係ももう少しわかりやすいように書いて欲しかったです。

あと、イルマがハーバート(夫)を殺した理由もいまいち納得がいかなかった。今まで娘が暴行
受けても知らんふりしてきたのに、その日に限って娘の為に衝動的にって言われても・・・
どうも、イルマの人物像はブレがあるような印象でした。







次はできれば日本を舞台に書いて欲しいなぁ。本格ミステリとしては充分面白かったけど、
やっぱり海外が舞台の作品は読みにくいし苦手^^;