ミステリ読書録

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加納朋子/「少年少女飛行倶楽部」/文藝春秋刊

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加納朋子さんの「少年少女飛行倶楽部」。

中学一年の海月は、腐れ縁の幼馴染・樹絵里に付き合って嫌々ながらに得体の知れない部活
「飛行クラブ」に入部する羽目に。しかし、その部は部長の斉藤神とその友人・中村の
二人しかメンバーがおらず、まだ部として認められてさえいなかった。海月は、5人目の
メンバーを勧誘するため、まだクラブに入っていない学生がいないかと捜す。すると、入学前に
高い所から落ちて怪我をして、不登校になっている女生徒がいると言う。早速樹絵里と部長の
神と三人で連れ立ってその少女の家にクラブ入会の勧誘に行くことにするのだが――『空を
飛びたい』少年少女たちの願いは叶えられるのか?爽快で痛快、空飛ぶ傑作青春小説。


うわうわ。どうしよう。どうやってこの素敵な作品の良さを伝えればいいんだろう。加納さんは
もともとブログ開設以前からずっと追いかけてきた大好きな作家さんです。著作はほとんど
リアルタイムで読んでいる。今回も実は道尾さんの新刊と一緒に回って来ていたのだけど(現在
読書中。明日はレビューが書ける筈?)、まず読みたい!と思ったのはこちらの方でした。

いやぁ、もう、ツボにはまりまくりました。ページを捲るのが楽しくて楽しくて仕方がなかった。
気がつけばあっという間に一冊が読み終わっていました。何が良いって、すべてがとしか言い様が
ないんですけれども、まずは主人公のくーちゃんや変人部長の神サマを始めとするキャラが抜群に
良い。特にくーちゃんの神サマへの一人ツッコミが可笑しいやら微笑ましいやらでにやにやしっぱなし。
最初は嫌々ながら「飛行クラブ」というなんだかよくわからんクラブに入部したくーちゃんですが、
無愛想で口の悪い変人部長・神サマの「空を飛びたい」という思いにほだされ、次第に彼のことを
「飛ばせてあげたい」と思うようになる。「自分が飛びたい」じゃなくて、「飛ばせてあげたい」
と思うところがくーちゃんの良いところ。主人公のくーちゃん(海月は『みづき』と読むのだ
けれど、『くらげ』とも読めることからついたあだ名)は、自分では気付いていないけれど、周り
からとっても愛される性格。いいところも悪いところもひっくるめて、素敵な女の子なのです。
『やるべきことはきっちりと、でも、やらなくていいことはなるべくやらない』のモットーは、
どこぞの古典部(笑)のホータロー氏を彷彿とさせるのですが、基本的に人が良いので頼まれたことは
断れないし、人の倍頑張ってしまう。損な性格とも云えるけど、周りのみんなはそんなくーちゃんが
大好きになって行く。気がついたら周りに人が集まってるタイプでしょうね。
そして、変人部長の神サマ(名前はジンと読むけれど、くーちゃんの心の中では『かみサマ』と
呼ばれています)がまた大変ナイスなキャラでして。中二とは思えない傍若無人な振る舞いには
ついつい苦笑してしまうのですが、彼の場合それがそんなに嫌味じゃなくて、なんだか認めて
しまえる所が不思議。もちろん、普通に接してたら単なる『嫌なヤツ』でしかないのでしょうが、
「こういうキャラなんだ」とくーちゃんのように認めてしまうと、すんなり彼の性格を受け入れ
られちゃうんですね。「空を飛びたい」なんて荒唐無稽な夢を持って一人でクラブを立ち上げる
頑固さも良いじゃないですか。冒頭に偉そうな活動内容を掲げた割に、最終的には気球に乗るって
チープさが中学生だなぁとも思うのですけれど(苦笑)。背後には少々複雑な家庭事情があって
重いものを抱えていて、実はいろんなことを我慢しているちょっと訳アリなところもありますし。
中二のくせに意外に苦労人?^^;私はかなり好きなキャラでした。

「飛行クラブ」での活動を通して、それぞれのキャラが成長していくところが良いですね。樹絵里
なんかは、最初くーちゃんへの過剰な依存が鼻についてあまり好きになれなかったのですが、終盤
で実はきちんといろんなことがわかっている子だとわかって、見方ががらりと変わりました。
イライザのキャラなんかは他の人が書いたら絶対みんなから嫌われる嫌な子でしかないだろうに、
そこを嫌なキャラなだけで終わらせないところが加納さんらしい。最初は私も嫌悪しか覚えな
かったのに、最後にはいい仕事してるじゃん!って受け入れていました。
ただ、るなるなが終盤でくーちゃんに冷たい態度を取った理由はいまいち腑に落ちませんでした。
るなるなのキャラだけはちょっと中途半端というか、最初と最後でキャラ造詣にブレがあるように
感じてしまいました(まぁ、最初の頃は本性が見えてなかっただけなのかもしれませんが)。

あと特筆すべきは何といってもくーちゃんママ!なんてチャーミングな人なんでしょう。こんな
親になりたい!って思わせてくれるような素敵なママです。くーちゃんが「(私が)生まれて
来る時、男の子と女の子どっちが欲しかった?」と聞いたら、「海月が欲しかった」とさらりと
答えてくれる。こんな風な家庭で育てば、そりゃー良い子が育つよね・・・。

実は私は高校一年の時、文化祭で気球を作って飛ばしたことがあります。人が乗れるような
本格的なやつじゃなくて、ただ何も乗せないで空に飛ばすだけの小規模なものだったけれど。でも、
いまいち纏まりのなかったクラスが『気球を作る』ことで団結し、「なんとしてでも飛ばしたい」
という思いを胸に完成までこぎつけ、当日実際に気球が空に飛んだ時は(といってもせいぜいが
2~3メートル浮いただけだったけど^^;)本当に達成感があったし、やって良かったと思い
ました。思えばあれが私の高校時代の一番の青春の思い出かもしれない。だから、くーちゃんたちが
気球を飛ばすのに必死になってる姿に普通の人よりも共感したのかも。

コミカルな作風だけど、合間にきちんと少年少女に伝えたい大事なことが盛り込まれている所が
良い。ああ、加納さんの作品だなぁと嬉しくなりました。
こういう作品に出会えるから、本を読むことがやめられないんだって思う。基本的にはYA向け
だけど、大人が読んでも十二分に楽しめる作品だと思います。それぞれのキャラがみんな
生き生きとしていて、これぞ青春小説!って感じ。ラストに有川さんばりのムフフ~な
要素もあります(ニヤ)。読後も爽やか。ここ最近で読んだ青春小説の中ではダントツに面白かった。
頑張れば、誰だって空を飛べる。たぶん、きっと。そう、教えてくれる作品。
今一番たくさんの人に読んで欲しい青春小説です。