ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乾くるみ/「六つの手掛かり」/双葉社刊

乾くるみさんの「六つの手掛かり」。

国道でヒッチハイカーを拾って山道を走行中後続のタクシーと事故を起こしてしまった北見。
一軒の民家の前で立ち往生していると、民家の住人の男が怒って出て来た。事情を話してわかって
もらうと同時に男の家に招かれ、一晩泊まって行くことに。それぞれが割り当てられた部屋で
一晩を明かすと、翌日ヒッチハイカーの若い男が殺されていた。現場の部屋は錠がかかり、密室
状態だった。一体なぜ誰にも面識のない筈の男が殺されたのか、そしてその方法は?(「六つの玉」)。
元マジシャンのプロモーター林茶父が六つの謎を鮮やかに解決する珠玉の本格パズラー短編集。


イニシエーション・ラブ」で一躍人気作家に躍り出た乾くるみさんの新作。良くも悪くも
『古き良き時代の本格ミステリといった趣で、今時ちょっと珍しい本格パズラー全開な作品
でした。本格ミステリ好きなら楽しめる内容だとは思うのですが、正直年々頭の固くなっている
頭の悪い私には、真相のトリックの説明がいまいち頭に入って来ず、ピンとこないものが多かった。
だから真相読んでも「ふーん」って感じで終わってしまって、あまり驚きを感じられなかった。
多分良く出来ているとは思うのだけど、もうちょっとわかりやすく説明して欲しかったです。
探偵役の林茶父氏のキャラももう一歩書き込めばもっと魅力的になりそうなのに、薄いキャラで
終わってしまっているのが残念。二話目の『五つのプレゼント』での姪との会話なんかはほのぼの
していて良かったですけどね。基本的にはこの手のトリッキーな本格ミステリは大好きなジャンル
なのだけど、自分の頭の悪さのせいなのか、はたまた昔ほどこういう作品に乗れなくなって来たのか、
ちょっと楽しみきれませんでした。ただ、ラスト一篇の仕掛けは乾さんらしくて良かったです。
絶対何か仕掛けてくるなーと思っていたので、来た来たーって感じでした。まぁ、さほど驚きが
あるものではなかったですが、こういう遊び心のある作品は大好きです。
ただ、今までの乾作品ではあまり意識したことがなかったのですが、今回会話文の一文が
やたらに長く、不自然で読みづらく感じる部分が多かった。トリックの説明なんかでは
仕方がないとは思うのですが、そうではない普通の会話の部分でも読点を乱用して一文を
長くしているところが多かったので、何か読んでいて息苦しさを感じてしまいました。こういう
文章に出会うと、文章のリズムって大事なんだなぁと思いますね。私は乾さんの文章とはちょっと
リズムが合わないのかな、と感じました。


以下各作品の短評。
『六つの玉』
これも脳内でなかなかトリックが頭に思い描けず苦戦。窓のつららとかトイレと階段口のドアとか、
細かい設定が真相にちゃんと効いているとは思うのだけど・・・映像で見せてくれ^^;

『五つのプレゼント』
被害者の仮名のつけ方には「なるほどー!」って思いました。まぁ、例の作品は読んでないので
アレなんですけども(汗)。前述しましたが、茶父と姪の仁美の関係が良かったです。ミステリ
の真相は良く出来ていると思うのだけど、こんな理由で二人の人間を爆死させる人間の心理は
理解不能です。

『四枚のカード』
本格ミステリ08 2008年本格短編ベスト・セレクション」参照。本格ミステリベストに選ばれるだけあって、
巧く出来ているとは思うのですが、結局犯人が人を殺してまで隠しておきたい秘密が何だったのか
わからなかったのでちょっと消化不良。敢えて書かれなかったのもわかるのですが。でもねぇ。

『三通の手紙』
これはなかなか凝っていて面白かった。トリックもわかりやすかったし、素直に感心できました。
動機もなるほど、と思えるものでした。ラストのある人物の壊れっぷりにちょっとぞくり。

『二枚舌の掛軸』
一番猟奇的な殺人。これも二枚の掛軸の様子がいまいちピンと来なくて、多分すごく良く出来て
いるんだろうけど、それほど驚けなかった。映像で見たら「おお!」って感じだと思うんだけど。
それにしても、北斎の本物をあんな風にしちゃうってのはある意味犯罪行為でしょう。犯人の動機
はきちんと明かされていないけど、やっぱりそれに激怒して突発的にって感じだったんじゃない
のかな。そりゃ、自分のものをどうしようと自分の勝手なんだけど・・・。

『一巻の終わり』
これも前述しましたが、非常に乾さんらしい仕掛けで締めくくりに相応しい一作。これを書きたいが
為に各作品のタイトルをこういう形式にしたんだろうな。最後にこういう仕掛けを用意してくれる
のは大歓迎。でも、ボールペンでアレをしたらページが折れたりして後が残っちゃう気がするん
だけどなぁ。本自体がひっくり返りそうな気もするし。そんなに上手く行くのかな~ってちょっと
疑問に思ってしまった。でも作品としてはこれが一番好き。


林氏が奇術マニアであるし、本格パズラーに拘った作品ということで、泡坂妻夫氏の作品を思い
出しました。ああいう作品が好きな方なら面白く読めるのではないかな。ラスト一篇には本自体に
仕掛けがあるので最後の1ページまで必ず読みましょう。