ミステリ読書録

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恩田陸/「六月の夜と昼のあわいに」/朝日新聞出版刊

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恩田陸さんの「六月の夜と昼のあわいに」。

ミステリー、SF、ファンタジー、様々なジャンルで描き出す恩田陸の世界。フランス文学者・杉本
秀太郎による序詞と、希代の新鋭画家による画10枚を加えた豪華なコラボレーション小説。
小説トリッパー』に掲載された10の短編を収録。


恩田さんの新刊。最近小路さん並に毎月コンスタントに新作が出て、追うのが大変になって
きました^^;『メガロマニア』の方は予約に乗り遅れてもうしばらくかかりそう。といっても、
あちらは紀行本っぽかったですけど。
こちらは20ページ程度の短い短編が10本。今回はちょっと趣向を凝らしていて、各短編ごとに
フランス文学者杉本秀太郎氏の詩や俳句と、10人の画家による絵が挿入されています。ただ、正直
云って、小説と詩と絵がはまっているという感じがなく、どうもちぐはぐな印象を受けました。
面白い試みなだけに、三つの要素がはまればとてもいい作品になったように思うのですが・・・。
そもそも、小説自体、今回はピンとこないものが多かった。恩田さんのイマジネーション溢れる
短編は基本的には好きなのですが、本書には不条理さが前面に出た不可解なものが多く、あまり
印象に残る作品がなかったです。多分、一月後にはほとんど全部のお話を忘れていそうな気が・・・^^;
バラエティに富んでいるともいえますが、ジャンルがばらばらなので、絵と詩という共通点が
あっても、内容的には散漫な印象に感じました。恩田さんの短編集の中では一番評価は低い
かも・・・。ちょっと、恩田さんも量産作家になりつつあって、一作の完成度が低くなって
来ているのかなぁ。文章は相変わらず良いのだけれど。理瀬シリーズみたいな世界観と完成度の
作品が読みたいです。作品がたくさん読めるのは嬉しいけれど、それで作品の質が落ちてしまう
のでは本末転倒になってしまいますから。

厳しいことを書いてしまったけれど、もちろん好きな作品もありました。
以下印象に残った作品のみ短評を。

『Y字路の事件』
これは一番好きですね。不思議なY字路で奇禍に遭う人々のお話。それぞれの人間の証言が
少しづつズレていて、なぜこんな現象が起きたのかを読者が少しづつ想像出来るように
書かれていて読ませます。終盤まではどこか不安定で不穏な空気を演出しながら、ラスト
では不思議な郷愁と温かみのある余韻を感じさせる秀作。

『窯変・田久保順子』
ただただ、黒い。もし、こうであったら~こうだったのに。というIFの世界を描いた作品。
もし、田久保順子が当初の予定通りの人生を歩んでいたら、これってすごいスケールのSF小説
なっていた訳なのね・・・ここまで大風呂敷じゃなくても良かったんじゃぁ・・・と思わずに
いられませんでしたが、まぁ、それ位のスケールだからこそ、オチの黒さが際立つのかも。

『コンパートメントにて』
これはラストを読むまで何が書きたいのかさっぱりわからなかったのですが、ラストを読んで
すべてがすとん、と腑に落ちました。これも、相当の黒さ。恩田さんのこういうミステリ的な
展開の作品は大好き。

『Interchange』
これは恩田さんご自身がそのまま投影された作品と云えるのでしょうか。深夜、パソコンの前に
座ってぼーっとしていたら突然画面が暗くなり、慌ててEnterを押す恩田さんの姿が浮かびました。
そして、襲ってくるイマジネーション。「あわい」という言葉。白でもなく、黒でもない、薄墨色。
光と闇の狭間にある「あわい」の世界。
この本の構想が浮かんだのはこういう経緯だったのかな、と思わせてくれる一編でした。
ちなみに、「あわい」という言葉、初めて知りました・・・^^;


装丁の祖父江さんは相変わらず良い仕事をしています。芸術的センスに溢れた一冊。恩田初心者
にはおススメしませんが、恩田ファンにはとりあえず読んでみて欲しいかな。