ミステリ読書録

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有川浩/「植物図鑑」/角川書店刊

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有川浩さんの「植物図鑑」。

冬終わりかけの凍てつく夜、吞み会で終電ギリギリで帰宅した河野さやかは自宅マンションのポーチ
で一人の青年が行き倒れている場面に遭遇した。事情を聞くと、無一文でどこも行くあてがなく、
お腹が空いて動けないという。青年はさやかの腕に手を出し、一言「お嬢さん、よかったら俺を
拾ってくれませんか」――犬のお手のような動作をするしぐさに、つい魔がさして家に上げて
しまうさやか。その日から、二人の奇妙な同居生活が始まった――野に咲く草花と供に描かれる
キュートで甘いラブストーリー。携帯小説サイトで連載された本編、雑誌掲載の番外編と書き下ろし
一編を収録。


うわ。うわうわうわ。どうしましょう。めちゃくちゃツボにはまりました、コレ。これはですね、
モリミーの『夜は短し歩けよ乙女』を読んだ時と同じくらいの興奮度です(わかりやすいでしょ)。
カバーイラストがまたおんなじ方なんですね。すんごい、可愛い。でも、好みなのは表紙だけじゃ
なくて、中にはタイトルに合わせたような、植物図鑑を思わせる草花のカラー写真が挟まれ、
それぞれの章の扉ページも白黒の草花写真だったりして、随所で心憎い装丁になっていて、
読んでいるのが楽しい。もちろん、楽しいのは装丁だけじゃない。内容も読んでいてじたばた
しちゃうくらい、キュートで愛らしい作品なのです。行き倒れの青年を拾う女の子というシチュ
エーションというと、まんま『君はペット』を思い出すのですが(大好きなマンガです)、
拾った後の展開は全く予想外の方向に進んで行きます。ヒロインのさやかが拾った青年・イツキ
は家事全般が得意で、特に料理が抜群に上手く、お料理が苦手で一人暮らしなのにほとんど
自炊をせずに過ごしてきたさやかの胃袋をガッチリつかんでしまいます。しかもこのイツキ青年、
そんじょそこらの主婦顔負けに節約術に長けていて、道端や野原に咲いている野草(この
作品を読むと『雑草』という言葉を使いたくなくなります)を食材として使って、この上もなく
美味しそうなお料理を作るのです。しかも顔も良くて性格もやさしいと来ては、さやかじゃ
なくたって恋に落ちるって!全く、さやかが羨ましいったらなかったです。野草料理の素朴な
美味しさにはまったさやかは、週末の度にイツキと野草採りに出かけては、帰ってきてイツキ
の野草料理に舌鼓を打つ、というなんとも羨ましいとしか言いようのない幸せな生活を過ごす
ことになります。そして、そうやって過ごすうちに、さやかはイツキを意識し始め・・・という
その後は有川ファンなら推して知るべし。きゃー、きゃー、じたばた、赤面必死でにやけながら
読みました(周りに人がいたら完全にアヤシイ人)。もちろん、恋は一筋縄ではいかない展開
が待ち受けていますが、そこはそれ、完全無欠のハッピーエンドですので、ご安心を!

一章ごとに出て来る野花は、知ってるものもあれば全く知らなかったものもあり、勉強になり
ました。先にも述べましたが、この作品を読んで、道端に咲いている野花は『雑草』ではなく、
きちんと名前のある『植物』であることを再認識させられました。単なる雑草だと思っていた
植物も、料理法次第では立派な『食材』。イツキの作る料理は、どれも本当に美味しそう
で、食べてみたいものばかりでした。巻末には親切にも、出て来たお料理のレシピが載せられて
いるので、作ろうと思えば作れるのですが、作る前に材料を自分で収穫しに行かないといけない
というなかなか一般人には高いハードルがあるんですよね^^;イツキみたいなイケメンと一緒
ならいいけど、一人で野原で草摘んでたら、ちょっと怪しい人のような気が・・・^^;

昔、子供の頃に野原や広場で草花を摘んで遊んだ頃を懐かしく思い返しながら読みました。
さやかがつくしを見たことがなかったり、蓮華やシロツメクサで花冠を作ったことがないというのに
少し驚きましたが、最近の現代っ子はみんなそんなものなのかな。家でゲームばっかりしてないで、
たまには外に出て冒険するのも必要だと思うんだけど、今はそういう場所も少なくなっているのかと
思うとちょっと寂しくなりますね。

とにもかくにも、とってもキュートで素敵な作品でした。装丁も内容もトータルで愛らしい。
もちろん、有川さんならではの赤面ラブシーン(笑)も満載です。自衛隊から離れたここ数作で
すっかり有川ファンになりつつある私です。今までの振る舞いを消し去りたいくらいです(苦笑)。
これはもう、今年の年間ベストに間違いなく入れたい一冊。恋愛小説であると供に、まぎれもなく
『空腹小説』(by チルネコさん^^)でもあります。
自信を持っておススメ致します(説得力ないって?^^;)。ベタ甘ラブコメに抵抗なければ
是非とも読んで欲しい逸品です。これも手元に置いておきたい一冊だなぁ。



ご指摘頂き、カバーイラストは『夜は短し~』とは別の方だと判明しました。すすす、
すみませんでした・・・(汗)。すずなさん、情報ありがとうございました。