ミステリ読書録

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森見登美彦/「宵山万華鏡」/集英社刊

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森見登美彦さんの「宵山万華鏡」。

祇園祭宵山の夜。小学生の姉妹は、バレエ教室のレッスンが終わった後、祭の喧騒に惹かれる
ように人ごみの中へと繰り出した。好奇心旺盛な姉と、その姉にいつも振り回される妹。妹は、
無鉄砲な姉が祭で悪い人に捕まってしまわないか心配でならなかった。そして、ふとした瞬間、
姉妹は繋いだ手を離してしまい、祭の中ではぐれてしまう。姉を探して街を歩き回る妹の前に、
赤い着物を着た美しい少女たちの集団が現れ、彼女たちに導かれるままに路地の中へ・・・
(『宵山姉妹』)。摩訶不思議な宵山の一日を巡る連作短編集。


モリミーの新刊です。舞台は当然の如くに京都ですが、今回は祇園祭宵山の一日のみにスポット
が当てられています。同じ宵山の夜にそれぞれのお話の主人公が体験する奇妙な体験を描いて
います。各作品はそれぞれに何らかのリンクがあり、すべてのお話がきちんと繋がっています。
第一話で出て来た姉妹が最後にも出て来るのですが、一話では妹、最終話では姉が主人公になり、
すべての話が閉じるという構成が巧いですね。読む前に『きつねのはなし』に雰囲気が似ている
という感想を見かけたのですが、確かにいつものオモチロ度が控えめで、ひんやりとした京の街
の怪異と不思議を描いたという点では一番作風は近いかも。ただ、二話目の『宵山金魚』、続く
宵山劇場』の辺りはモリミーらしい突き抜けたバカバカしさがあり、完全にシリアスよりという
訳でもないのですが。祭の喧騒の中に垣間見える冷ややかな怪奇がタイトルの万華鏡さながらに
現れては消えて行く。幻想怪奇的な祇園祭の情景は、恒川さんの『夜市』の、闇の中に浮かび
あがる夜市の雰囲気を思い起こさせました。読んでいるうちに、めまぐるしく変わる万華鏡の
ような宵山の一日から抜け出せなくなる。登場人物たちと供に、自分もそんな不安な気持ちに
捉われるようなひんやりとした空気を感じる作品でした。
ただ、連作短編の構成もいいですし、宵山の賑やかしくも妖しい雰囲気もとても良かったのですが、
情景がすんなり頭に入って来ない場面が多く、なぜかいつもよりもちょっと読みにくさを感じ
ました。240ページと薄い本なのに、思ったよりも時間がかかってしまった。やっぱり、私は
おバカでクダラナイ妄想爆発なモリミーの方がすきなのかも・・・。


以下、各短編の感想。

宵山姉妹』
普通は姉と妹のキャラが反対だと思うんですが、そこがひとひねりあって良かったですね。何にでも
好奇心まるだしてついて行っちゃう姉を心配する妹の健気な心情にほろり。金魚みたいな赤い
着物の女の子集団がコワかったです^^;

宵山金魚』
馬鹿で素直な藤田君のキャラが良かったですね。そんな彼を襲うトンデモない怪異の連続に
目が点。うわー、モリミーの世界だぁ~~~!と喜んでいたのですが・・・(そもそも、冒頭
の「超金魚」のくだりからしてオモチロそうな雰囲気がぷんぷんしてましたし・・・が、
ラストのからくりを読んで、「ここまでやるか、乙川よ!」と思いましたです・・・・。

宵山劇場』
宵山金魚』と対になる作品。ネタばれになるので詳しくは書けませんが。小長井君と山田川
さんの関係が良かったですね。山田川さん、樋口さん、大塚緋沙子女史に次ぐ強烈女史キャラ
のような気が・・・^^;でも、可愛い所もあったけどね。

宵山回廊』
繰り返される宵山の一日。この作品のイマジネーションも恒川さんの『秋の牢獄』を思い出しました。
おじさんはどうなってしまったのでしょう。宵山の夜に閉じ込められてしまったのか・・・。

宵山迷宮』
これも『宵山回廊』と対になる作品。『宵山金魚』に出て来た乙川氏がなんとも怪しげな人物に
なっている。一体、この人なんなんでしょうか。同じように『繰り返される一日』がテーマ。
ラストシーンは『~回廊』と同じ場面になるのだけれど、たった二行つけ加えるだけでがらりと
印象が変わる。巧い。

宵山万華鏡』
先に述べたように、一話目と対になる作品。今度は姉視点。妹は心配していたけれど、姉は姉で
ちゃんと考えて行動しているのがわかる。そして、やっぱり姉も妹が心配で仕方がないのです。
宵山の夜から抜け出した姉妹の麗しき姉妹愛にほろり。



こうして一作づつ感想を書いてみると、この構成自体が万華鏡を表しているのがわかりますね。
少しづつ回すにつれて少しづつ見える模様が変わって行き、一巡するとまた最初の模様に戻る。
中のパーツは同じなのに、全く違う模様が見えて印象ががらりと変わる。回し続けると永遠の循環の
中に閉じ込められて出られなくなるような気がする。繰り返しの描写を多様することで、読む
側にも同じような印象を与える効果を出しているように思います。やっぱり巧いですね。

奇しくも、今日は地元の神社のすもも祭りでした。祭りの喧騒や出店の雰囲気など、本書のことを
思い出しながら歩いていたのですが、やはり、京都と東京は全然違うなぁって感じ。しかも
真昼だったし^^;いつか、本物の祇園祭宵山の夜を体験してみたいものです。

装丁もお祭りの色鮮やかさや賑やかしさが出ていていいですね。タイトル字もかっこいい。
モリミーらしい変幻自在の幻想怪奇を描いた、夏向きの一冊と云えるでしょう。