ミステリ読書録

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歌野晶午/「ROMMY 越境者の夢」/講談社文庫刊

歌野晶午さんの「ROMMY 越境者の夢」。

人気絶頂の歌手ROMMYが、レコーディングスタジオの仮眠室で死体になって発見された。死因は
絞殺。その日はイギリスのトップ・アーティスト、フランク・マーティン(FM)がROMMYのアルバムに
参加する為スタジオを訪れる予定になっていた。日英天才アーティストの二大共演を実現させる
為、スタッフたちはFMにROMMYの死を隠してFMのパートだけでも録音しようと画策する。ROMMYと
懇意にしていた映像ディレクターの東島は、死体を前に異常な行動を取るスタッフたちの中に
ROMMYを殺した犯人がいるのではないかと疑いを持つ。そして、一同が目を離した隙にROMMYの死体は
細切れ切り刻まれ、奇妙な装飾を施され無残な姿になっていた――天才歌手に隠された驚愕の真相
とは――?


本書は初期~中期にたくさん読み逃しがある歌野作品の中でも評判が良いらしく、以前から
気になっていた作品です。意外にページ数が多くて、視点も時系列もころころ変わるので
ちょっと戸惑い、読むのに案外時間がかかりました。かなり凝った構成になっていて、この本
自体が天才シンガーROMMYの自伝のように、合間合間に本人が書いた歌詞や、生まれてからの経歴、
子供時代の通信簿なんかも挿入されていて、天才シンガーがいかにして成功してきたのかが伺える
ようになっていて、なかなか面白かった。ただ、ROMMYと中村茂との出会いを描いた過去を知れば知る
ほど、現在のROMMYの言動が成功者ゆえの傲慢で我がままなものにしか感じられず、ROMMY自体には
全く好感が持てずに読み進めました。ROMMYの内面描写も最後まで出て来ない為、先入観だけで
そう思い込んでしまったのですが、最後まで読んで、それは歌野さんの術中にまんまとはまって
いただけだったことがわかりました。冒頭の中村への手紙なんか、完全に人気が出てもう彼を必要
としなくなって彼を『切った』としか思えなかったですもん・・・。読み終えて、冒頭の手紙に
込められた本当のROMMYの気持ちが見えて来ました。

殺人の真相はあまりにもあっけなく明かされてしまうので、ミステリとしてはかなり拍子抜けな
印象でした。ただ、この作品の読ませどころはその先にあるROMMY自身の謎の真相と、ROMMY
を支え続けた中村が、なぜ死体を前にしてああいう異常な行動をとったのか、という二つの点に
あると思います。そこには思いがけない理由があり、ROMMYの本当の姿と本心を知ってとても
切なく、やりきれない気持になりました。最後までROMMY自身の人となりが全く見えてこない分、
本人自身から伝えられる真実がより心に響きました。








以下、ネタばれあります。未読の方はご注意ください。













ただ、ROMMYの謎の方に関しては実はなんとなく見当がついてしまったんですよね・・・^^;
だからすごい衝撃というのはなく、ああ、やっぱり、という印象の方が強かったです。
これが書かれた当時に読んでいたらもっと衝撃を受けたかもしれません。最近はこういう
題材を扱う作品が増えてきましたが、当時はまだそれほどなかったでしょうからね。
でも、中村が胸にこだわった理由までは考えが及んでいなかったので、真相を読んで
なるほど!と思いました。死体切断の場面では完全に狂人としか思えず、かなり気持ち
悪かったのですが、理由を知って実に冷静な判断でその行為を行っていたことが
わかりました。

ちなみに、一応この真相を踏まえて、記事ではROMMYのことを示す三人称表記は控えました。
だからいちいち名前を出しているので文章がしつこくなっていて読みにくくてすみません。
まぁ、心は○なんだから○○って書いちゃっても良かったのかもしれないけど・・・(一応
伏字)。
中村があの人物だったというのは、考えれば当然わかった筈なのに全然推理できなかった
です・・・アホすぎ^^;


しかし、間に挟まれる中村のイラスト、酷すぎじゃない?プロのイラストレーターの絵には
全く見えなかったです。この絵で世間の評判が良かったという部分に一番疑問を感じたかも・・・。
カラーにしたらまた印象が違うのかもしれないけど・・・。
もうちょっとましなイラストレーター使えばいいのになぁと思いました(黒べ?)。





ちょっと途中中だるみする部分もありましたが、なかなか楽しめる作品でした。
ようやく回ってきた新作の『絶望ノート』も楽しみです。