ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

上橋菜穂子/「精霊の守り人」/新潮文庫刊


短槍の達人で女用心棒のバルサは、< 新ヨゴ皇国 >の第二皇子・チャグムが川で溺れている場面に
出くわし、川に飛び込んで彼を助ける。皇子を助けた褒美として報奨金を与えると皇子の母・二ノ妃
から二ノ宮の館に呼ばれ、手厚い歓待を受けるバルサだったが、二ノ妃の真の目的はバルサにある頼み
事をすることだった。妃によると、チャグムが溺れたのは過失ではなく故意に誰かが仕組んだもの
であり、幼い身体に何らかの『邪悪な何か』を宿らせた彼は命を狙われる立場にいるというのだ。
妃は腕の立つバルサに皇子を託し、息子との今生の別れを決意していた。妃の想いを感じ取った
バルサは、皇子を連れて皇国から旅立つ。しかし、その旅には様々な苦難が待ち受けていた。
チャグムとバルサ、二人の壮大な冒険が今、ここから始まる――。


以前から評判が良いので読んでみたいと思っていたシリーズ。それを聞いた職場の人が好意で
一気に全巻貸してくれたものの、図書館本に追われて職場に置きっぱなしになっていました。
本来なら今日は歌野さんの『絶望ノート』を読むつもりで持って来ていたのだけど、なんとなく
文庫で手に取りやすかったので本書を読み始めてみたら・・・止まらなくなりました。結局
空き時間はほぼこの本に没頭して読みふけってしまいました(仕事はどうした?^^;)。
面白かったぁ。

あとがきで著者自らが言及されているのですが、本書はまさしく『大人から子供まで楽しめる
和製ファンタジーだと思います。完全に児童書を目指したのであれば、バルサのようなタイプ
のヒロインが生まれる訳はありません。何せもうすぐ三十に手が届くという年齢で、筋肉質の
武闘派で、女性ながらに用心棒として戦うことを生業としています。過酷な過去を引きずり、自ら
に架したしがらみと戦いながらも、地にしっかり足をつけて生きている。半面、昔馴染みの
薬草師・タンダへの想いを胸に秘め、時に彼の言葉に動揺してしまう女性らしい一面も持って
いるし、用心棒を買って出たチャグムに大しては姉のような母のような、温かい包容力で彼を
守り通します。強く、優しく、温かい。とても、素敵な女性です。そして、彼女に守られることに
なったチャグムもまた、彼女やタンダと出会い供に旅を続けるうちに、少しづつ成長を遂げ、
逞しくなって行きます。始めはただ守られるだけの世間知らずの皇子様で、いけすかないガキ
って感じだったのに、ラストでは全くその面影はありません。たくさんの修羅場を経験し、バルサ
たちから多くのことを学び、そして自らの胸に宿った命を『守る』ことを知った彼の成長は
目覚ましく、こちらまで嬉しくなりました。
ただ、バルサとチャグムの関係が良かっただけに、ラストシーンは切なさでいっぱいになりました。
お互いの胸に宿った相手への『想い』。離れ離れになっても、きっと変わらない関係が築けた
のではないかと思いました。幸運なことに、私はこの先二人がまた出会うことを知っている。
もし、リアルタイムで読んでいたらもっと悲しい気持ちに捉われただろうな。最終巻で二人が
どうなるのかは予想もつかないけれど。

とにかく、世界観もキャラもしっかり確立されていて、ブレがないので安心して読めます。
ストーリーも起伏があって、ハラハラドキドキ飽きさせない。新ヨゴ皇国の歴史背景もきちんと
わかりやすく描かれているので、ファンタジーを読む時はいつも大抵その辺りの歴史背景に
退屈を覚えるのだけど、この作品に限ってはそういうことがなく、すんなり入って行けました。
色鮮やかにひとつひとつの光景が浮かび上がるような情景描写も見事。やっぱり、人気あるだけの
ことはあるなぁと思いました。和製ファンタジーの金字塔という評価も納得でした。
恩田さんの解説がまた素晴らしいです。文章の上手い人は解説書いてもやっぱり読ませるの
だなぁ。

図書館本の合間にちょっとづつ読み進めよう。早くまたチャグムやバルサに会いたいです。
それにしても、最近ほんとにミステリよりもそれ以外のジャンルを読む方が多いような・・・。
ブログタイトルやっぱり変えるべきなのか?^^;でも、単なる『読書録』じゃ味気ないしねぇ。
でも、次はちゃんと『絶望ノート』の記事になる・・・筈(まだ数ページしか読んでないけど・・・^^;)。