大倉崇裕さんの「オチケン、ピンチ!!」。
大学入学早々、廃部寸前の落語研究会に無理矢理入部させられた越智。在学5年目にして天才的な
落語の才能を持つ部長の岸と、爽やかな風貌に反して武芸の達人の中村、二人の先輩に振り回され、
夢に描いたキャンパスライフから遠ざかる毎日を過ごしていた。ある日、岸が北三号教室の窓ガラス
を割ったとして、始末書を書かされることになってしまった。この大学には始末書を三枚書くと
即退学という厳しい校則がある。そして、岸はすでに二枚の始末書を書いている。ここで岸が始末書
を提出すれば退学処分になり、部員二名以下になって自動的に廃部になる運命のオチケンも大打撃
を受けることになるのだ。岸は窓ガラスなんて割っていないという。誰かの陰謀が働いているのだ。
中村と越智は、岸の無実を晴らすべく、調査に乗り出した――青春落語ミステリ―第二弾。ミステリ
YA!シリーズ。
楽しみにしていたオチケンシリーズ第二弾。でも、地元の図書館では一向に入荷する気配がなく、
どうしたものか、と思案していたところ、隣町の図書館に入荷しておりました。どうも、最近
地元の図書館はYA書を入れ渋る傾向にあるような・・・菊池さんのミステリ―ランドもいまだに
入らないし。この分だとウッチー(※内田康夫氏)のもあやしいなぁ。購入希望出す程積極的に
読みたいって訳でもないので、この手の本は入荷を気長に待つしかないのですが・・・。
それはさておき、本書。今回も二人の先輩に良い様に振り回されて、それでもなし崩し的にそれに
乗って動いてしまうお人よしの越智君のキャラが良かったです。相変わらず本人の意思とは関係
なく、事件に巻き込まれてしまう越智君。授業に出たいのに、オチケンの方を優先させられ、
ちっともまともに単位が取れそうにないところはちょっと気の毒になりましたが。周りの先輩の
見立て通り、越智君の将来は噺家になる以外にないのかも・・・本人嫌がってますが、多分この
先もそうなるべく、周りの人間がおぜん立てして行くのだろうなぁ。誰もまともに越智君の落語を
聞いていないのに、『噺家になる』と決めているのが不思議なのですが。何かオーラが出てるん
だろうなぁ。そもそも名前からして落語の為に生まれたような人間ですしね(笑)。
今回は二つの中編から構成されています。窓ガラスを割った罪で始末書を書かされる羽目に
なった岸先輩の濡れ衣を果たすべく奔走する『三枚の始末書』と、岸先輩の師匠・花道家春蔵の
ライバル、松の家一光の弟子であり一人息子の緑葉の失踪の謎を追う『粗忽者のアリバイ』の二編。
『三枚~』の方は、陰謀を仕掛けた犯人側の悪質さに腹が立ちました。人を助ける為とはいえ、
全く関係ない人間たちを陥れて退学に追い込もうとした罪は重い。何も、すでに始末書を二枚
書いてる人物をターゲットにしなくても良かったのではないかと思うのですが。確かに、前科
(と書くと聞こえが悪いけど^^;)がある人間を対象にした方が罪を被せやすいんだろうけど
・・・それにしても、ある人物が退学にならずに済むならば、他の人間が退学になっても構わない
という、その心根の汚さにムカムカしました。そんなの全然善意の動機じゃないよ。しかも
やり方回りくどいし。窓ガラスが割られた理由、夜中に大学に忍び込んだ理由、視聴覚教室の
プロジェクターが壊された理由、すべてが繋がっていてミステリとしては面白かったのですが、
ある事を実現させる為だけにそこまでするかなぁと、ちょっとリアリティの面では首をかしげて
しまいました。でも、謎解きをする越智君はなかなかかっこよかったです。いつもはお人よしで
頼りないキャラですが、謎解きになると聡明さを発揮するとこがいいですね。そして、ラストの
土屋氏とのやりとりも良かったです。土屋氏のキャラがまた良いですね。越智君への心憎い温情
に嬉しくなりました。越智君が進級できるかかなり心配になってきたので、心強い味方が出来た
ような気持ちになりました(笑)。まぁ、そんなに甘い人じゃないとは思いますけど(現に
二話目のラストではまた冷酷に戻ってるし・・・^^;)。
二つ目の『粗忽者~』はミステリとしてよりは人情を主体にした作品と云えるでしょうか。
岸さんと緑葉、二人の天才はこれからも良きライバルとして切磋琢磨していくのでしょうね。
心配なのは春蔵師匠の病状ですが・・・。春蔵師匠のキャラは好きなので、早く良くなって欲しい
ですね。ラストでは、今度は中村先輩が学生部(土屋さん)と対立・・・!?こんなところで
終わらせないで下さい~~~^^;これはもちろん、第三弾が書かれるということですよね。
今回嬉しかったのは『季刊落語』が出て来たこと。編集長といえば、もちろん、あの人ですよね^^
そのうち、緑さんとかともニアミスしたりするのかなぁ。越智君が噺家になれば当然、そうした
接触も起こりうるでしょうけどね(笑)。
ミステリとしては軽めですが、個性的なキャラが生き生きしていて、会話も楽しい。気軽に
読める落語ミステリ入門として、広く読まれて欲しいシリーズです。