ミステリ読書録

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三浦しをん/「星間商事株式会社社史編纂室」/筑摩書房刊

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三浦しをんさんの「星間商事株式会社社史編纂室」。

星間商事株式会社に努める川田幸代、29歳。企画部で手がけた大型ショッピングモールの企画が
大成功して、類似の企画の責任者にならないかと打診を受けたが、ある秘密の趣味を持つ幸代は、
これ以上忙しくなってプライベートな時間が持てないのは絶対に困ると固辞した挙句、回された
部署が会社創立60周年を記念して創刊されることになった社史を手掛ける、社史編纂室だった。
しかし、そこは事実上、問題職員たちが集う、ゆるゆるなやる気ゼロの職場。バリバリ仕事を
してきた幸代は、ちっとも進まない社史編纂作業に頭を悩ませる日々だった。しかし、ある日
ふとしたきっかけから、上司の本間課長に幸代の『秘密の趣味』がバレてしまう。そして、その
『秘密の趣味』に感銘を受けた本間から、とんでもない提案が出されることに――腐女子の、
腐女子による、腐女子の為の傑作エンターテイメント。


ついに書いちゃいましたか、しをんさん。彼女のエッセイを読んでいる方なら誰でもご存じかと
思うけれど、しをんさんは正真正銘の腐女子です。漫画とBL小説をこよなく愛する
その徹底したオタク魂には常々感心させられ笑わせてもらってきました。しかし、こと小説に
なるとその腐女子っぷりはどこへなりと影をひそめ、取り上げた題材を徹底して取材し、
きっちり読ませるエンターテイメントに仕立てあげる手腕はまさに職人技。次はどんな題材で
楽しませてくれるのか、最近は新刊が出る度にわくわくしながら手に取るようになりました
(まだ読んでない過去作品もたくさんあるのだけど^^;)。
そんなしをんさんが、満を持して(!?)書いた本書、端的に言うと腐女子小説です。
主人公川田幸代の影の趣味、それがコミケで同人誌を売りさばくこと。同人誌というのは
個人で書いた(描いた)小説や漫画等を自費で印刷会社に持ち込み、一冊の本にまとめた小冊子の
ことです(正確な定義は良く知りませんが、概ねそんな感じでしょう)。ジャンルはオリジナル、
パロディ、様々ですが、幸代が書いているのは男と男の恋愛を描いたBL小説(や○いあり←
わかる人だけわかればよろしい)。ちなみに前述したコミケとは、コミックマーケットの略で、
そうした同人誌を売りさばく即売会のことです。まぁ、毎年夏とか冬になるとテレビでも取り上げ
られたりしているので知ってる方も多いと思いますけれど。しかし、なんで私がこんなに細かく
説明してるのかっていうと、むかーし、むかしにちょこっと足突っ込んだことがあるからだったり
するようなしないような・・・あはははは~~~(逃)。

ごほん。とにかく、幸代は会社でOLする傍ら、休日やアフターファイブはすべて高校時代から
つるんでいる友人との同人誌作りに充てている訳です。それは会社の人間には絶対に、絶対に
極秘の事柄だった筈なのだけれど、ある日ひょんなことからそれが同じ部署である社史編纂室
の窓際課長・本間にバレてしまいます。そして、あろうことか、本間は社史編纂の仕事と同時
進行で、社史編纂室からも同人誌を出そう!とトンデモない提案をしてきます。そこから事態は
急転直下、怒涛の展開へ・・・社史編纂に当たって調査をして行くうちに、会社の歴史の暗部が
明るみになり、幸代には脅迫状が届けられ、社史に真実を載せようと奔走する幸代たちを妨害する
影の手が・・・と、まぁ、なんだかめちゃくちゃな展開が繰り広げられる訳なのですが、息も
つかせぬ面白さで一気読みでした。

作中作を書いてる時がご本人は一番楽しかったのだろうと推察するのだけれど、いかんせん本書は
一般文芸書として出版される訳で、かなり抑えめな表現で自制したのだろうことが伺えました(笑)。
ただねぇ、作中作のシチュエーションには私はかなり抵抗がありました。誰が中年男と年若い部下
との恋愛なんか読みたいっつーのよ。しかも、中年男の方は特別ダンディって訳でもなく、
くたびれた普通の疲れたおっさんだし^^;せいぜい10歳差程度にして欲しかったわ・・・。
脳内で想像すると・・・うげぇぇ。

さすがに腐女子に関する描写はリアリティがあったのだけど、でも、幸代を含め、同人活動
している仲間三人に全員パートナーがいるってのはいかがなものか。腐女子ってのは、彼氏なんか
いらん!一生漫画の中の男たちに恋してればいいんだ!って開き直って独り身でいるもんだと思って
いたのだけど・・・最近の腐女子事情は変わってきたということなのか?^^;まともに恋愛できる
人間がなぜ腐女子で居続けられるのだ。そもそも、しをんさんご自身だって、そのタイプだと
思うんだけどなぁ(エッセイ読んでるとわかる)。

全体的にはご都合主義的展開も多く、ツッコミ所がありすぎて笑っちゃうくらいでしたが、まぁ、
面白かったからいいや、って感じです(笑)。幸代が放り込まれた社史編纂室のメンバーたちが
みんな個性的で、彼らの会話だけでも楽しめました。
何にせよ、この題材をぶつけて来たというその心意気(というか、勇気?)に拍手です。
人によってはどん引きしそうだもん^^;しをんファンなら大抵の人は受け入れられるとは
思いますけれどね。
しをんさんが趣味200%を出して楽しんで書いてるのが伝わってきました。みんなで社史や
同人誌を作り上げる過程は痛快でした。面白かった~。ついつい何度も読んでて噴き出して
しまった(変)。

これ、智さん辺りには是非ともおススメしたいなぁ(あ、つい名前を出してしまった・・・
すみません^^;)。
しかし、長いタイトル・・・しかも全部漢字^^;人におススメするのにすんなりタイトル
出て来ないだろうな^^;絶対、一度で覚えられないぞ^^;