ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介/「骸の爪」/幻冬舎刊

道尾秀介さんの「骸の爪」。

ホラー小説家の道尾は、従弟の結婚式の為、滋賀県にやってきた。しかし、従弟が取ってくれると
言っていたホテルが手違いで予約されておらず、新婦のつてで、翌日小説の取材の為に見学を予定
していた滋賀県南端の山間にある暮ノ宮の仏所・瑞祥房に宿泊させてもらうことに。その夜、宿泊
場所の宿坊で寝につこうとした道尾は、昼間に見学した仏像の工房にカメラを忘れて来てしまった
ことに気づき、懐中電灯を借りて取りに向かう。真っ暗闇の工房の中を懐中電灯で照らした道尾は、
一瞬、二十年前に行方不明になった仏師の韮澤が最後に掘ったという千手観音が、大きく口を開けて
笑っている姿を見てしまう。昼間見た時はそんな表情ではなかったのに・・・!怖くなって外に
飛び出した道尾は、深く茂った雑草の向こうから、『・・・マリ・・・マリ・・・』と繰り返す奇妙な
声を聞く。その声の方に近寄って行くと、木造りの社があり、一体の仏像が安置されていた。
その仏像の周りを白い靄が取り囲んでいた。懐中電灯の電池が切れ、宿場に戻ろうとした道尾は、
立ち去り際に暗闇の中仏像の方に向けてカメラのシャッターを押した。自宅に戻った道尾は、
カメラのフィルムを現像してそこに映し出されたものを見て、慄然とする。そして、友人の真備に
このことを相談する為、彼のいる真備霊現象探求所を訪ねることに。話を聞いた真備たちは再び
瑞祥房を訪ねる為、滋賀へ飛んだ――。真備シリーズ第二弾。


ようやく読みました。唯一読み逃していた道尾作品。あまりお仲間さんの評価がよろしくない
ようなので、なんとなく先延ばし、先延ばししていたらそのままになってしまいました。読んで
ない作品があるのにデビュー作から追いかけているとは言えないとの至極ご尤もなご指摘を受け、
こりゃ早く読まねば!と、いそいそと手に取った次第。近々、真備シリーズの新作も出るそうですし、
タイミング的にはちょうど良かったのではないでしょうか。

で、あのー、あのー、なんで、これ、評判悪いんでしょう?デビュー作よりはるかに出来がいい
じゃないですか!めちゃくちゃ面白かったぞ。なんか、また一人浮いた評価になりそうですが、
だって、面白かったもん。確かに、額が割れた仏像から血が流れていた理由は脱力ものでは
ありましたが(というか、ある意味バカミス?リアリティ全くなし^^;)、それ以外の部分
では細かく散りばめられた伏線が最後に綺麗に回収されて、ほぼすべてが腑に落ちてすっきり
しました。忘れていた伏線もいちいち思い出させてくれたし。どんでん返しに次ぐどんでん返しの
謎解きは圧巻でした。まぁ、犯人に関しては、やっぱりそっちかーって感じではあったのですが、
直前まである人物だと信じ込んでいたので、作者の術中にまんまとはまりました^^;でも、
これに関しては弱冠アンフェアじゃないかと思った部分もあるのですが(後述します)。

前作よりもホラー度は控えめで、本格ミステリよりになったと思います。ただ、真っ暗な工房で、
道尾が笑う仏像を見てしまうくだりは、夜中にひとりで読んでたら絶対怖かったと思います。
昼間で良かった・・・。そもそも、何体もの無数の仏像が安置されてる図ってだけで、怖い。
春に旅行した京都の三十三間堂で見た千体もの千手観音の光景を思い出しました。あれは、
怖かった。絶対夜に行けない、と思いましたもん・・・。道尾さんらしい怪奇要素と本格要素
がほど良くミックスされて、私の最も好みとするタイプの横溝系本格ミステリでした。住職出て
来るしね(笑)。

仏像ブームの今、本書が出版されていたら、もっと話題になっていたのではないでしょうか。
興福寺の阿修羅像のことも二回位出て来るし。仏像好きにはたまらない舞台設定で、仏像の蘊蓄
もうるさくない程度に挟まれていて楽しめました(あれ、私だけか?)。京都旅行ですっかり
仏像に魅せられた人間としては、この題材だけでもかなり食いつけました(笑)。

ラストのある人物の末路があまりにも悲しく、やるせなくなりました。とても好感の持てる人物
だっただけに、ショックが大きかった。なんとなく、その人物が再登場した時から嫌な予感は
していたのだけれど・・・(絶句)。








以下ネタバレあります。未読の方はご注意を!















韮澤と茉莉の子供が女であったことは、それまで散々『男』と表記していた手前、アンフェアの
ような気がしたのですが、でも、確かに、考えてみると生後二カ月で男女の区別がつく訳はなく、
そこで子供が『男』だと断言していること自体に疑問を覚えるべきだったのですね。

鎌と○のミスリードには完全にやられました。全く違う意味になりますね。目からウロコでした・・・。

バツニの意味も同様。なんとなく、彼に関しては染色体に関する何かがあるとは思っていたの
ですが。でも、真備のこの発言には侮蔑を感じてあまり好感が持てなかったですね。

道尾の見た夢に出て来た蚊の解釈も。彼がアレルギー体質だという伏線がこんなとこで効いて
来るとは!何気ない文章に無数の伏線が隠されていて、脱帽でした。

そういえば、この作品にもカラスが出てきました。仏像から流れた血の正体である虫(?)も
そうだけど、道尾さんの中ではカラスと虫はよっぽど好きなアイテムなんだろうなぁ。









みなさん、真備のキャラはあまりお好きでないようですが、私は結構好きですね(どうせ、道尾
作品に関してはいつも少数派なのだ)。まぁ、あまり内面とか出て来ないので、いまひとつ
つかめないキャラとも言えるのですが。亡くなった奥さんとの再会の為に今の事務所を立ち上げ
たという辺り、結構ロマンチストだったりするのかもしれません。愛する人なら霊の姿でも
いいっていうんだからね。


とにかく、そんなに期待していなかったせいか、想像以上に楽しめた一冊でした。本格好き
としては大満足の出来。もっと早く読めば良かったなぁ。私はやっぱりこのシリーズ好きです。
新作が待ち遠しいです。
これでとりあえず刊行されている道尾作品は全制覇。心おきなく道尾ファンを公言できるぞー。